いしはらしんすけ

カセットテープ・ダイアリーズのいしはらしんすけのレビュー・感想・評価

3.6
熱心なスプリングスティーン信者の自叙伝を原作にした、音楽映画。

洋楽ロックに関しては、人より多少うるさい(「多少じゃないだろ」という声が聞こえる)クチなので、この手の映画はつい構えて観がちな困った習性があるのだが、まあボス(スプリングスティーン)は専門外だから、比較的気楽に臨めました。

で、フタ開けてみたら、ほぼ初心者向けベスト盤で事足りる超王道選曲で、その面では終始気持ちよくアゲてもらいました。さすがの名曲パワーですな。

門外漢としては、それこそ劇中引き合いに出されるレーガンばりに歌詞世界には無頓着だったので、そこに焦点を当ててくれたことでボスの偉大さを再認識した次第。

一方、お話はどうかというと、主人公・ジャベドくんが1987年に16歳という、私とジャスト同い年の設定で、これだけでもう共感度は高い訳で。

勿論、ストーリーの軸となる父親との確執、幼馴染みとの友情、初恋などを巡るドラマは世代や国境を超えた普遍性が担保されていて、その描写も堅実かつ瑞々しい堂々のA級ライン。この点だけでも青春映画として一級品だと思います。

逆にイギリスにおける移民差別問題は、ブリグジットの件からも明らかなように、これまた汎時代的、そして汎世界的でもあるものの、ここは「1987年の16歳」という同化要素がやや枷となって、ちょっと物語世界への没入をスポイルされたかも。ま、あくまで個人的な事情ですが。

あとファッションとかスプリングスティーン以外の音楽の扱いに、微妙に違和感というか、「ちょいカリカチュア効かせすぎなんじゃ...」と思う部分、なきにしもあらず。

グリンダ・チャーダ監督は、1960年生まれのインド系イギリス人ということで、レイシズム描写の力点には腑に落ちると同時に、80年代後半のティーンポップカルチャーに関しては、微妙に苦々しく思ってるフシが...
大人世代の登場人物に言わせてる音楽観(ティファニーdisとか)が、本音に思えるなぁ 笑

そこで言うとですね、これは個人的なレベルではなく、87年のティーン的にはワールドワイドでメタル全盛なんですよ!ニュージャージーつったら、ボスよりBON JOVIなんスよ!

なのに当時アホほど売れてた(特に我々世代を中心に)LEPPSも白蛇もガンズもモトリーもまったく出てこないのは引っかかる...って、シンプルにグリンダさんのお好みじゃないんでしょうね。

それ以外にも細かい箇所で気になる描写があった気がするけど、局所的な演出とはいえ、実はこれ、ミュージカルだったりするので、リアリティラインとしては許容範囲かな、と。

最後にまた個人的な話に戻ると、舞台となってるルートン、私、23年前に行ってます!割とロンドンから近い(確か電車で30分ぐらい)けど、この映画の10年後にあたる97年でも、悪いけどホンマ何もない街でしたわ。

ほんで確かにパキスタン人多くて、ケバブの屋台とか出してて、イギリス着いて最初の食事は確かそれだったんじゃないかな?...と、思い出話はこのへんで。