にくそん

カセットテープ・ダイアリーズのにくそんのレビュー・感想・評価

3.7
音楽がもたらす喜びって古今東西、不変で普遍だと思った。ブルース・スプリングスティーンを知らなくても大丈夫。歌詞をちゃんと聴いて天啓にうたれたみたいにシビれちゃうとか、誰かと同じ曲を歌っているうちに一つになれるとか、そうだよねえいいよねえって頬がゆるむ。教師や古着屋や空港職員や、いい大人が自分たち世代の曲にハマッた若者に点が甘くなるのも、くすっとする。

主人公のジャベドは80年代後半のイギリスで暮らすパキスタン移民の学生で、彼らに絶え間なく降りかかる人種差別はかなりのもの。近所の子どもがパキスタン人住民の家の郵便受けから屋内へ、書きたくもない悪質行為をするわけだけど、そうされた側が子どもたちに怒ることも親に抗議することも警察に通報することもなく、ただごまかすように笑って後始末をするのが悲しい。

差別はありとあらゆる方法で行われていて、主人公の父が長年勤めた職場を人員整理であっさりクビになるのもその一つ。そういう境遇にいる人が、国や人種は違っても似た痛みを知っている人の音楽に救われるのは腑に落ちるし、気持ちのいい流れだった。

ガールフレンドの服装がかわいい。青いウォークマンもかわいいし、カセットテープのケースも今見ると無骨に素朴に四角くて、写真やイラストをプリントした小さな紙が入ってるのがかわいい。キスした夜に眠れなくなって詩を書いて彼女の部屋の窓に貼り付ける男子もかわいい。

ブルースの歌詞が空中や壁やあちこちに浮遊する演出は、映画の重さをいい感じに減らしてくれていたように思う。日本のテレビドラマで一時期よくあったけど、洋画では珍しいかも。

父子のドラマは、息子(主人公)の出来がよすぎる感。でも、人と人が一度争ってしまったのをやめて新たに関係を築き直すときには、あいつが先にやったんだ!と思わずに歩み寄るしかないのかな。そういうつもりで映画を観てなかったけど、ちょっと勉強しちゃったよ……。
にくそん

にくそん