カセットテープ・ダイアリーズの作品情報・感想・評価

上映館(2館)

「カセットテープ・ダイアリーズ」に投稿された感想・評価

このレビューはネタバレを含みます

【ブルース・スプリングスティーンのカセットを入れて、車で飛び出そう!】
いやはや、音楽と青春映画の相性の良さってのは凄いもんで、自分はついぞ音楽とは縁がない青春を送ってきましたが、その分映画では音楽による青春時代の素晴らしさを発信する物語にノックアウトされっぱなしです。
本作はドチャクソ真面目って印象な青春音楽モノでして、何かを発信することの素晴らしさ、そして言葉とブルース・スプリングスティーンの音楽が繋いでいく家族の物語としても素晴らしい!!脇役も隣人や親友、恋人といった理解者を配置して、作風も他人の好きを否定しないという真摯さ、演出面でも歌の使い方が巧すぎて痺れます。

主人公のジャベドたち一家はパキスタンからイギリスへと渡ってきた移民。折しもこの時期のイギリスというのが移民排斥運動が盛んだった時期。そのため、より生活を豊かにするために渡ってきた筈が、父親は真っ先にリストラ対象に選ばれてしまい、そんな状況にも関わらず仕事を移民に奪われたと感じた白人たちによって差別や迫害の洗礼を浴びせられます。
家の方は家の方でパキスタン系の厳格な父親による家父長制のため非常に息苦しい。学ぶ教科も、結婚相手も、職も全て父親によって決められ、自分の好きな音楽を聴くことも文章を書くことにもケチをつけられてしまうのです。

そんな鬱屈した環境の中で知り合った同級生から薦められたのがブルース・スプリングスティーンのカセットテープで、これを聴いたことで感化されていくワケなんですね。ブルースの歌うのは理不尽な差別や暴力への怒り。正にジャベドの置かれた状況そのものへ立ち向かうことの大切さを訴えかけてくるわけです。
ブルースをはじめて聴いた時のジャベドの衝撃ったるや、嵐の中でも窓を開けざるを得ないくらいの開放感!!いても立ってもいられなくなって嵐の外へと飛び出し、歌詞は周囲を飛び回り、壁へと映し出させれるなど、歌自体が一つの天変地異のように描かれる高揚感でジャベドの感情を表します。
私も洋楽に明るいワケでもなく、ブルース・スプリングスティーンは本作ではじめて聴いたんですが、その画面上に浮かび上がってくる歌詞のメッセージ性の高さが本当に素晴らしい。『ボヘミアン・ラプソディ』が現代のQueenファンを産むように、本作もまた新たな布教映画となるのですねぇ。

歌の持つ推進力はそのまま映画を進めるための力へも変換されます。ブルースに勇気を貰ったジャベドは何事にも挑戦的、かつ権利を主張するようになっていきます。本作ではところどころで音楽に合わせて皆が歌い出すミュージカル的な演出も目立つのですが、それを差別してくるファッキン野郎たちへの反撃手段として活用していくのがスカッとします。
恋する女の子へのアプローチの為に街中で歌い踊り出すサマなんかは、往年のミュージカルらしいベタさにも溢れていますが、そのノリについていけないというアクションを起こす親友を配置することでワンクッション置いています。プラス、あまりにもブルース・スプリングスティーンに傾倒しすぎていて、周りが見えなくなり「他人の好き」を否定するようになってしまったジャベドへ警鐘を鳴らす部分にも繋がっており、やはり堅実かつ真面目な作り。隙がないぞ。

この隙のない真面目さは音楽を奏でるブルースの真面目さにも通じる部分がありますかね。本作でも引用されていたブルースのインタビュー映像では「私がここまでやってこれたのは低賃金の工場で働いていた家族の支えなどがあったから」と語り、そうした低所得者層への愛やリスペクトを表明する。実に誠実で真摯な人物像です。歌詞の深いメッセージ性もこうしたしっかりとした人格の中からこみ上げてきたものなのでしょう。

これだけ音楽が高揚させてくれる青春モノの主人公って、バンドを組んだり音楽方面に進んでいくのがほとんどだと思うんですけど、ジャベドくんは文筆業方面に進んでいったのは嬉しかったですね。
いや、これは完全に個人的なことなんだけど、僕も一応文筆業でメシ食ってる端くれではあるので……音感が皆無なんでバンド組まれてもね「あっ俺には出来ないな」って最初から諦めムードになっちゃうからね……
なので、ジャベドくんがブルース・スプリングスティーンで勇気をもらって自分の文章に自信をつけて発信していくって行動の方がより現実的な勇気を貰えたんだよね。 何かを創作する喜びと、それを発表する喜び、それは音楽に限らずあらゆるものに通じる勇気と行動なのです。

とはいえ、その喜びを分かち合えない、理解してもらえないという苦しみというものも確かにあって、それが家長たる父との確執。ジャベドは父に威張り散らして他人に何かを強いるクセに、自分は社会から切られて何も成し得てない!ふざけるな!と怒りをぶつけるのです。

しかし、それは果たしてブルースの意志に沿うものなのでしょうか。
ブルースは自分の音楽活動の源を家族の支えと犠牲にあると定義して感謝していました。
それに倣って改めて自分の父親のことを考えるとどうでしょう?父は元々、家族の暮らしをより良くする為に見知らぬ地に移ってきたチャレンジャーでした。そこまでのことをする勇気と、家族の為に働いてきた信念は正にブルースが何よりリスペクトする精神であり、ジャベドが学んだ大切なことです。
その厳格さの裏に確かにあった父の想いと支え。これらがあったからこそ、論文が受賞するまでに至る自己表現が出来る自分がいる。そのことに気付いたジャベドは、受賞スピーチの場に父が来た瞬間に原稿を読むのを止め、自分の言葉で父への感謝を述べだすのです。父も息子の想いに触れ、頑なだった心を解いて抱き合います。これこそブルース・スプリングスティーンが高らかに歌いあげた理想を結実させた名シーンと言えるでしょう。

この辺りのパキスタン系の厳格な家庭での父親との対立軸と音楽による解放というテーマはかなり創作物との相性が良いのか、近年でも結構創られていますね。去年観たインド映画の秀作『シークレット・スーパースター』、『ガリーボーイ』なんかは中々近しいかも。
『ボヘミアン・ラプソディ』はフレディがまんまパキスタン系移民でしたね。こちらも父親との和解までの流れが美しかった。音楽とその辺りの文化圏の鬱屈との相性、あまりに良すぎます。
ただ、本作を観て一番似ているって思ったのは『遠い空の向こうに』かなァ〜。音楽とロケットの違いこそありますが、何か推進力のあるものから力をもらって父親とも分かりあい、故郷から凱旋していくという流れはいつ見ても綺麗です。ジャベドくんを演じるヴィヴェイク・カルラが心なし若き日のギレンホールに似ているってのもあるかもしれない。

ブルース・スプリングスティーンの音楽の使い方と展開の噛み合わせ方ももちろん見事なんですけど、もう一つ僕が着目しておきたいのは「車」の使い方。
ジャベドの家の車は中古車でエンジンのかかりが悪いんですね。序盤でも家族総出で車を押してやっとの思いで発車させるシーンがあったりする。
だから、中盤に父の存在に耐え切れなくなったジャベドが家を飛び出し1人で車を発車させようとしても、車はどこにも行けない。結局のところ家族の助けがなければジャベドはどこにも行くことが出来ないということを暗示しているわけです。この時点ではジャベドにとって車と家族は明確に束縛と呪いの存在でした。
しかし、ブルース・スプリングスティーンはこの車の持つ意味をも変えた。映画のラスト、大学入学のために旅立つため車の助手席に乗ったジャベドに父は車の鍵を渡すのです。運転手交代。即ち運転はジャベド自身の自立へ、家族はその旅立ちを見送る祝福へ。
長年の夢だった外への旅立ちをジャベドが果たすこの一連のシークエンスを、車一つで爽やかに表現しきる演出が見事すぎます。最高のラストです。

オススメ!!
~ブルース・スプリングスティーンの音楽が、かざした光で目がくらむ前に、向き合うべき存在を認めて明日への暴走~

音楽との出合いで、囚われていた感情や考え方から解き放たれたかの「高揚感」を覚えた経験は、大なり小なり、ある事でしょう。学びと経験を重ねて、自身の将来像がおぼろげに見えて来た時に、そんな音楽の力に後押しされた男子高校生が、頑固な父親に反発しながら、理想を見定め、相手への理解と承認を得るまでの成長譚です。

1987年英国のノドかな街ルートンに住む、パキスタン移民二世のジャベドは、晴れて高校に入学する。結婚して間もない頃に渡英した父マリクは、移住国で息子を実業家とすべく、「経営」を学ぶ道を選ぶように口うるさく言うものの、ジャベドは、物心ついた頃から詩や文章を綴るのを好み、その道で身を立てたいとは何となく思っていたものの、根強い人種蔑視の風潮に加え、趣味思考の異なる同級生が集まる環境に、今ひとつ、自信を持てずに居た。

そんな時、同じアジア系移民のループスから、「ブルースが、この腐った世界で真実に導く」と、まるで、ご託宣のようにカセットテープLPを2本差し出す。いつも通りの、父親との衝突の後、ジャベドは愛用のウォークマンで、気晴らしがてら再生した途端、耳から全身に「衝撃」が駆け抜ける。当時流行っていた、洗練されたナンバーと違って、米国の遠い街で生まれた無骨なサウンドと歌詞は、ジャベドの創作欲に注入されたガソリンの如く、見た目も考え方も感化されていく。高校生活の間に、親友や恋人も現れ、担任はじめとする理解者の後押しもあって、米国大学の招待を受けて、ブルースの生まれ故郷を尋ねるご褒美にも預かった。

その頃、不況による解雇で自動車工場での職を失った父親は、自分が思い描いた進路を外れて、学生生活を謳歌しているかに写るジャベドへの苛立ちは、最高潮に達しており、ジャベド自身も、説得を諦めて、独断で文学を学ぶべくマンチェスターの大学入学を進めて親子の隔たりは、確定的だった。そんな最中、活動優秀者として、表彰された「記事」を校内の集会でジャベド自身が、壇上に立ち「お披露目」しようとするその時、父親が家族を伴って現れて、ジャベドは、動揺してしまう。

親と子、こと同性同士の関係というのは、ドラマになる訳ですが。特に、父子というのは、男として認められたいという「葛藤」に、その要素を孕んでいて。英国を舞台にしたものでは、同じくサッチャー政権下の「リトル・ダンサー」を見た時の思いを、また、あらたにしました。息子の為に、スト破りをする父親の心変わりに、双眸から溢れるものを堪えるのが大変でした。それから20年過ぎて、再び、あのサッチャー政権下の父子のドラマが、また、これ程に、胸熱くしてくれるとは。自分の18歳を思い出して、あれほど、客観的に、そして、自身の心境を素直に吐露できたか判りませんが。卒業イベントとか、人生節目を、欧米作品は、良くも劇的に描けるものだ。

現在ジャーナリストとしての地位にある、脚色にも加わっているサルフラズ・マンズール氏の自叙伝が下敷きとなっています。高校生活というのは、ご近所の同年代以外の生徒も集まって、環境の変わり様に後ろめたさを覚えるものですが。通学路の途中に、民族主義に傾倒する暴力白人にガン付けられるなんて。それでもって、父子関係の衝突で、殻に籠ってもおかしくないところ、打ち込めるもの、逃げ道を与えてくれるもの、受け止めてくれる人たちの存在の何と、大きい事か。実際に親友であるループス氏との出逢いが、それを物語っているけれど、他にも、フィクションとして、ガールフレンドや、幼少期からの白人親友とその父親、近所の独り住まいの老人に、彼の文才を見出した女性担任教師とか、脇のキャラクター作りが、思春期の成長記ドラマを、巧い事下支えしています。

ボスこと、ブルース・スプリングスティーンの80年代といえば、ジャベドが託されたテープの1本、アルバム「ボーン・イン・ザ・USA」が、大当たりでした。かく言う、私ですら買いましたし。上京時代、ボスの日本初公演を目にした友人から、熱く語られた夜の記憶は、未だ薄れていません。その大ヒット以降、「フィラデルフィア」みたいに映画用に楽曲を書き下ろす事はありましたが、これほど多くの既成曲が、劇中に掛かりまくる事はありませんでした。

作品では、ジャベドの「好み」の移ろいに触れる過程で、80年代当時の英国で聴かれてたであろうボス以外の洋楽も流れて、それだけでも懐かしかったですが。昨今、英国出身のミュージシャン絡みの映画が製作されましたが、残ったバンドメンバーの意向や、未だ存命のミュージシャン自身の心情に縛られず、監督、原作者の「聴き手」側の目線で、アメリカ生まれのロックが取り上げられている分、ボス本人に馴染みは無くとも、すんなりと受け止める事が出来ます。

ジャベドが、ヘッドホンから注ぎ込まれるボスの歌に圧倒される場面では、目に見えて主人公が、歌詞に取り巻かれ、壁の背景ごと耳にした歌詞が貼り付く描写で。彼だけが、耳にしているハズのボスの歌でもって、周囲の人達も、身体を使った表現を気が付けばしている、ヘッドホンならではの「主観」的ミュージカル風な展開もあって。「マンマ・ミーア」の再来みたいな、場面に合わして書かれた曲かと勘違いしそうにもなるなど、80年代当時を知らなくても、音楽が人を、如何にして動かすかを、大変、分かり易く見せています。そして、演奏家や、音楽の作り手自体ではなく、あくまで、思春期真っただ中のリスナーの話なので、受け手はボスの曲を置き換えて解釈できるし、先に挙げた通り、ドラマとしての格子が「確固」としているので、溜飲を下げてくれます。

会話に挟まれる、「洋楽ネタ」のくすぐりも、気にしなくとも、勿論、本編は楽しめますが。先にあげたミュージカル仕立ての場面が一度で納まらず、ジャベドとループスが、ボスの故郷を尋ねる際の、空港係員の余りに「人情味」溢れる対応だとか、主人公にバラ色の将来を約束させるが如き、ハマった音楽が持つ「浮遊力」だとか、しがらみを振り切る明るい描写ばかりで終わって良いものなのかと、息子の都合で押し通される事に不安がもたげるのですが。

終幕あたりの、ジャベドのスピーチで、ボスのシングル曲タイトルで、本作の原題である「光で、目がくらんで」を引用しながら、我が身を顧み、異国で生活を切り開くのに精いっぱいだった父親の心情に寄り添う。そして、父は、親子の背景など存ぜぬ生徒らと聴いた、息子の心情に拍手を送る。自叙伝を超えた、映画ならではの見せ場だとは知っていても、単なるスプリングスティーンへのリスペクトに陥らず、この世に息子として生を受けた者が、だれしも願う、父からの「承認」の劇的な描き方に、揺さぶられずには居られないはず。

拙文にお付き合い頂き、ありがとうございます。
シネプラザサントムーン 劇場⑪にて
カリン

カリンの感想・評価

4.5
ブルース。
最高!
atari

atariの感想・評価

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映画×音楽が大好物なので期待して観に行ったけどあまりハマれなかった作品。
音楽が好みじゃなかったのかもしれない。わからないからもう1回観たいな。
( ̄~ ̄;)
普通オブ普通
見ても見なくても良かった。
レイ

レイの感想・評価

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2020.7.3 T
GEXI

GEXIの感想・評価

3.6
英国の移民問題みたいな描写が多くて、主人公家族のコンプレックスになってたりして、結構考えさせられたけど、ミュージカル風な演出等で上手く明るい映画に仕上がってると思います!
ただ、その演出が肌に合わないと、唐突に置いてけぼりを喰らいそうというか、興醒めしちゃうかも。
9/2鑑賞。めちゃくちゃ良い映画に出会えて嬉しい!人と出会い音楽と出会い人生が変わってゆく様にワクワクした。音楽に支えられて生きている人間なので「分かる〜〜〜!」ってなるシーンばかりで感動の嵐。差別問題も出てくるので辛い場面もあるが、鑑賞後は最高の気分で走り出したくなった。
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