Yoshishun

WinnyのYoshishunのネタバレレビュー・内容・結末

Winny(2023年製作の映画)
4.2

このレビューはネタバレを含みます

“出る杭は打たれる”

2002年、無償で不特定多数のユーザーとファイル共有ができるソフト「Winny」が登場。P2Pネットワークを発展させiPhoneにおけるAirdropの走りともいえるそのフリーソフトは、ネットワークの普及とともに何百万ものユーザーを獲得する程の社会現象と化した。しかし気軽に誰でもファイルの共有が可能という利便性がある一方、悪意のあるユーザーによるウィルス拡散、それによる警察や司法組織等の機密文書の流出を発生させる危険性が指摘され、当時の安倍晋三官房長官が使用を禁止する程の社会問題にまで発展した。本作は、Winnyによる著作権法違反幇助罪に問われ開発者である金子勇が逮捕されるという前代未聞の事件を映画化したもの。なお、本作で描かれるのは、7年越しの無罪を勝ち取る最高裁ではなく、事件から約2年後となる第一審までである。

金子勇という人物は、簡単に言えば日本のプログラマーにおいて屈指の天才といえる存在だった。凡人であれば2ヶ月もかかるものを2日で開発してしまう程。そんな彼がただ利便性や社会の発展のためだけに開発したWinnyが、国家をも揺るがす社会問題へと発展してしまう。映画内では既にWinnyは流通しており、開始5分程度で悪意を持って音楽や動画データ(ロード・オブ・ザ・リング二つの塔の動画も!)を流出させた若者二人が逮捕される場面が挿入される。そして場面が変わり、壇弁護士の一言が本作の全てを表しているように思える。

「ナイフを使って誰かを刺殺した。刺殺した実行犯は捕まるが、ナイフの製造者は捕まるか?」

結局、Winnyというのもユーザーのモラルによって、悪意のあるシステムというレッテルを貼られたに過ぎない(ただ劇中でも金子の口から安全性の問題については言及されていた)。ほんの出来心で人を不幸にし、挙句の果てには国家機密の流出の根本原因になってしまいかねない、ある種の起爆剤になりかねないものだった。

そして、劇中では幾度となく金子本人の意思とは異なる供述の変化、誓約書の偽造、検察側の穴の多すぎるかつ早急すぎる対応など、明らかに何かを覆い隠すような気持ち悪さが点在する。まさに国民に不都合な真実を隠す国家のようであり、取り敢えず誰かを悪人に仕立て上げ国の総力をかけて叩き潰すという現代司法制度そのものである。誰の指揮のもと、誰が捜査し、何が決定的な証拠かを提示できず、大多数の者、特にネットとは無縁な老害者が理解できないものは徹底的に排除されるのだ。

実際に金子勇は7年もの月日をこのWinnyによる裁判に時間をかけてきた。そして、いざ最高裁での無罪判決を勝ち取ったものの、約1年半後に急性心筋梗塞により42の若さでこの世を去る。裁判後、面と向かってプログラムに打ち込めたのはわずか半年間だけだったという。Winnyは技術的に早すぎたのか、はたまた遅すぎたのか。本当に裁かれるべきは諸悪の根源とされた開発者自身だったのか。少なくともこの無罪判決は、開発者の支えになるものであり、咎めなしに好きに開発をしてほしいという金子の意思、技術者の育成と成長の一因になったように思う。

映画としては一件関係なさそうな愛媛県警裏金問題との関連性が徐々に明らかになっていく過程も面白く、演者の本人に似せた演技力も文句なし。特に東出昌大は遺族から借りたという金子勇本人の遺品を身に纏いながら、憑依したようにもみえる。また三浦貴大も一見誰だがわからない程に壇弁護士を熱演し、吹越満のエリートっぷりも忘れ難い。不当逮捕に加担した渡辺いっけいを追い詰める裁判劇も見所だ。

金子勇側の物語であるため、警察側の物語が裏金問題以外は薄め、またそれに伴い検察として登場した渋川晴彦も裁判では超脇役という役回りになっているのが残念。
ただあくまで金子と壇による技術者の未来をかけた闘いの記録であることを考えると、警察側の描写が少ないのも致し方ない。

最後に、吹越満演じる秋田弁護士の言葉より。
「出る杭は打たれる。杭を打つには3人必要。杭を打つ者、杭を持つ者、杭を打つよう指示するもの。」
本作のWinny事件に置き換えるとどうなるか。是非劇場で確かめてほしい。
Yoshishun

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