このレビューはネタバレを含みます
これはしみじみ刺さる映画だった。主演二人も素晴らしいし、ひたすら引きの絵が多かった『わたしは光をにぎっている』よりも普通のカットが多く見やすい。今回は町が主役じゃないからかな。
リアルで暗い『50回目のファーストキス』。偶然にも太賀は両方出てます(笑)
太賀演じる主人公がなぜ足が悪いのかよくわからないが、生まれに関係しているのだろうか。そして衛藤美彩側もあのお母さんを見る限り恵まれた家庭環境ではなかったよう。
足の悪い青年と記憶が続かない女性が寄り添うように生きていく話だけど、当たり前のことが当たり前にできないつらさが説明的でなく丹念な積み重ねで描かれていく。
二人の間の思い出が毎日リセットされるつらさは確かにすごい。『50回目のファーストキス』の主人公がいかにポジティブで楽観的だったかよくわかる(笑)。
でも今回は毎朝起きても男と初対面というわけでないのがミソ。付き合うか付き合わないかぎりぎりの状態になったところで事故っているから成り立つ話。
相手への嫌悪はないし好意はあるんだけど、いきなり家で目が覚めるというサプライズ。戸惑うだろうな。あの子がわりと切り替え早い性格なのかな。そして記憶が残らないことは承知で一緒に住んでいても、やはり耐え切れなくなってしまう主人公の反応は責められない。そりゃそうよね。あの子に切れてもしょうがない。
そういう心情の機微をブロッコリーやこないだ買った電球で表す巧さ。
タイ焼きは今まで通り作れるし、昔の彼氏は覚えているけど、自分のことはまだ日常にも思い出にもなっていなかったと徐々に自覚していくつらさが絶妙だった。
そして、そう思っていたところでのあの付箋発見という演出。泣くわ。
覚えていなくても覚えていようという気持ちは消えないし、何よりも相手に記憶がなくても自分が覚えているし、それはもう相手の思い出でもあるという『50回目のファーストキス』でも語られていたテーマがもっと静かに描かれる。
『静かな雨』ってタイトルはずっと満たされず孤独だった主人公の心の内だったのかな。
彼の雨は本当はもうとっくに止んでいた。
にしてもみんな演技上手いな。衛藤美彩があんな繊細な表情できるとは知らなかった。タイ焼きを作る姿も様になりすぎだろ。
そしてでんでん、三浦透子、川瀬陽太、村淳、みんな素晴らしい。実在感ありますね。でんでんのいい人キャラはいまだになれないけど(笑)。
いや~いい映画だった。
タイ焼き食いたくなって買っちゃいました。
ただ正直、あのでんでんの父親の日記のエピソードはメッセージの核心に触れすぎていてちょっといただけない。