Dick

静かな雨のDickのネタバレレビュー・内容・結末

静かな雨(2020年製作の映画)
3.5

このレビューはネタバレを含みます

1. 初版2020.02.23

❶相性:やや不良。

➋監督・共同脚本の中川龍太郎は28歳、主演の行助役の仲野太賀と、こよみ役の衛藤美彩は共に25歳。若いスタッフとキャストが、記憶喪失をテーマに作り上げた瑞々しい小品。
①記憶喪失をテーマにした作品は、古典的名作『心の旅路(1942米)』を筆頭に、近年の『50回目のファーストキス(2018日)』 まで、内外で幾つもある。
②本作のような「短期記憶障害」は、実際にはどうか知らないが、映画では珍しくない。
③下記❼のトリビア参照。

➌本作の内容は、静かで淡々としたラブストーリー。
①大学の研究室のスタッフとして働いている行助(仲野太賀)は、帰宅途中、パチンコ屋の駐車場で屋台営業しているたい焼き屋に立ち寄り、店主のこよみ(衛藤美彩)と知り合う。
②2人は徐々に親しくなる。
③小雨の夜の帰り道、2人はお互いの家の分岐点で分かれる。
④こよみは、その直後、交通事故に遭い意識不明となる。見舞いは、別居しているこよみの母(河瀨直美)と行助のみ。
⑤2週間後、突然こよみの意識が戻るが、1日の記憶は眠ると消えてしまい、事故前の記憶に戻ってしまう、高次脳機能障害となっていた。
⑥行助は、こよみ一人だけでは心配だと、自宅に誘い、同居する。
⑦こよみは、元彼(萩原聖人)のことは鮮明に覚えているのに、今一緒に生活している行助のことは、事故以前の記憶しかないことに耐えかねて家出する。
⑧行助は、こよみが、今日の出来事をメモして記憶に留めようと必死の努力をしていたことを知り、雨の中、後を追いかける。
⑨そして、河原の草むらの中うずくまっているこよみを行助が見つけたところで幕が閉じる。その時雨は上がっていた。

❹本作は、ロジックではなくフィーリングを楽しむ映画。
①上記➌のように、あらすじとして文章で書くと、まとまっていて矛盾はないが、ロジカルに考えると、日常生活で必要不可欠な基本事項が省略されているので、生活の匂い、生きる匂いが伝わってこない。
②その最たる例は、こよみの収入源。こよみは母から独立して、一人暮らしをしている。そして、パチンコ屋の駐車場の隅の屋台で、たい焼き屋を営んでいる。これ以外の収入は描かれていない。一人暮らしであることを考慮しても、これだけで生活できるとはとても思えない。
③そんな泥臭いことを問題にする方がおかしい、と言われるかもしれないが(笑)、気になるのだから、どうしようもない。
④「フィーリングを楽しむ映画」とは、そういう意味である。

❺まとめ
①本作をフィーリングだけで楽しむことは出来なかった。
②本作がハッピーエンドなのかどうかは、観客の判断に委ねられている。
③小生は、2人の愛と思いやりが障害をカバーするだろうと判断した。雨が上がって薄日がさすラストシーンは希望を示していると判断した。

❻他に、下記の技術上の問題が気になった。
①今は使われていない、1932年以来のアスペクト比1.37のスタンダードサイズにした理由が理解出来ない。
②セリフがボソボソ小さく不明瞭で聞きづらい。一方、音楽や環境音は大きく、妨げになっている。

❼トリビア:短期記憶障害の映画
①ざっと調べてみて、あまりの多さに驚いた。ここには出来の良いものだけを取り上げたが、凡作まで含めると数倍はあるだろう。
②なぜ、これほど多くの作品が作られるのか? 
おそらく、現実には希有な障害で、大部分の観客にとっては、身近で起きた経験のない人たちばかりと思われるので、作り手にとっては、自由度が大きい、作り易いということではなかろうか?

1.外国映画

①『メメント(2000米)』
初公開日: 2001/11。監督・脚本:クリストファー・ノーラン。出演:ガイ・ピアース、キャリー=アン・モス。
●ポイント:激しいショックで前向性健忘という記憶障害になり、10分間しか記憶を保つことができなくなった主人公。

②『50回目のファーストキス(2001米)』
初公開日: 2005/06。監督:ピーター・シーガル、脚本:ジョージ・ウィング。出演:アダム・サンドラー、ドリュー・バリモア。
●ポイント:交通事故の後遺症から一晩で前日の記憶を全てなくしてしまうという短期記憶喪失障害を抱えた主人公。

③『君への誓い( 2012米)』
初公開日: 2012/06。監督:マイケル・スーシー。出演:レイチェル・マクアダムス、チャニング・テイタム。
●ポイント:突然の事故で、結婚前の数年間がスッポリ空白となった新妻。

④『リピーテッド (2014米・英・仏・瑞典)』
初公開日: 2015/05。監督・脚本:ローワン・ジョフィ、原作:S・J・ワトソン。出演:ニコール・キッドマン、コリン・ファース
●ポイント: 事故のせいで毎朝目覚めるたびに前日までの記憶をなくしてしまうヒロイン。

2.日本映画

①『博士の愛した数式(2005日)』
初公開日: 2006/01。監督・脚本:小泉堯史、原作:小川洋子。出演:寺尾聰、深津絵里。
●ポイント:交通事故で80分しか記憶が続かない初老の天才数学者。

②『ガチ☆ボーイ(2007日)』
初公開日: 2008/03。監督:小泉徳宏、原作:蓬莱竜太、脚本:西田征史、出演:佐藤隆太、サエコ、向井理、仲里依紗。
●ポイント:事故で記憶が1日しか持たなくなった主人公。

③『一週間フレンズ。( 2016日)』
初公開日: 2017/02。監督:村上正典、原作:葉月抹茶:脚本:泉澤陽子。出演:川口春奈:山﨑賢人。
●ポイント:特殊な記憶障害があり、一週間で友だちの記憶がリセットされてしまうヒロイン。

④『50回目のファーストキス(2018日)』 (2001アメリカ映画のリメイク)
初公開日:2018/6。監督・脚本:福田雄一、オリジナル脚本:ジョージ・ウィング。出演:山田孝之、長澤まさみ。
●ポイント:事故で“前日のことをすべて忘れてしまう”記憶障害に陥ったヒロイン。

2. 追記2020.05.23

❶受賞
①第20回東京フィルメックス「観客賞」受賞。

➋評価:
①KINENOTE:56人76点/100点。
②Filmarks:601人3.7/5.0。
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