カタパルトスープレックス

さすらいのカタパルトスープレックスのレビュー・感想・評価

さすらい(1975年製作の映画)
4.0
ヴィム・ヴェンダース監督の初期ロードムービー三部作の最終作です。

本作の主人公はトラックで移動しながら暮らしている映写機整備士のブルーの(リュディガー・フォーグラー)と妻と別れて自暴自棄になってる男ロバート(ハンス・ツィッシュラー)です。ストーリー(台本)はありません。テーマやメッセージは観る側によって色々と受け取ることができます。

ロードムービー三部作の特徴は1)テーマとしてのロードムービー、2)アメリカ、3)即興演出の三つかなと思います。

1)テーマとしてのロードムービー
本作は三部作の中でも最もロードムービーとして純粋な形を取っていると思います。『都会のアリス』でも『まわり道』でも主人公たちは「ひとりでは見つけられない」と気づきます。本作でもそれは踏襲されています。A地点からB地点まで行くのが旅です。ロードムービーではA地点とB地点で主人公の何かに変化が起きます。人が物理的に移動するのがロードムービーではないのです。

旅には終わりがあります。A地点からB地点にたどり着いたら終わりです。本作の場合は国境が終着地点です。『都会のアリス』ではアリスの家族が見つかった時点、『まわり道』では全ての仲間と別れた地点でしたね。しかし、B地点がまた新たな出発地点だと本作では明確に描かれています。全ては変わらないといけない。時間も人も場所も。その変化こそが「旅」なんでしょうね。

2)アメリカ
ロードムービー三部作で「アメリカ」を象徴するのは自分が今いる場所とは違う遠くにある自分がいるべき場所です。本作は特に「アメリカ」が強調された作品になっています。まず、トラックで移動するのがアメリカっぽいです。そして、流れる音楽もアメリカの音楽。リュディガー・フォーグラーはロードムービー三部作を通じて主人公を演じていますので、「アメリカ」が板についています。もう「心ここに在らず」ではない。自分のいるべき場所を見つけたのですね。

それがリュディガー・フォーグラー演じるブルーノの自由な行動に現れていると思います。今回はクライテリオン版のボックスセットに収録されいているBlu-rayで鑑賞しました。つまり、ブルーノの「ち○こ」と「う○こ」がモザイクなしにバッチリ映っています。おいおい、まさか?!と思っていたら「う○こ」がニュルニュル😂😂😂

そして、Improved Sound Limitedによる擬似アメリカンロック。"Nine Feet over the Tarmac"がテーマソング的に全編で流れます。ブルーノが使っているあのEPレコードプレーヤーいいなあ、欲しいなあ。

完全に蛇足になるのですが、この映画って小道具がすごくいいですよね。ロバートが持っているTUMIのスーツケース、二人が買うお揃いのサングラス。そしてEPレコードプレーヤー。

3)即興演出
本作は台本がないほぼ完全な即興演出でした。前作の『まわり道』はそれが裏目に出て失敗したと(ボクは)思います。本作では即興演出がとても良い効果を発揮しました。非常に長い尺の映画なのですが、全く飽きることなく観ることができました。

しかし、その「飽きずに観られる即興演出」をしっかりと支えていたのが撮影監督のロビー・ミューラーだと思います。ロビー・ミューラーはロードムービー三部作でそれぞれ違うスタイルを使いました。『都会のアリス』ではグレイン感が非常に強い16mmフィルムによる白黒映像。『まわり道』ではカラー映像。そして、本作では非常にクリアなコントラストの白黒映像です。やはり撮影監督を務めたジム・ジャームッシュ監督の『ダウン・バイ・ロー』のスタイルはこの時点で既に確立されていますよね。

『パリ・テキサス』との共通点:スライドギター