とらキチ

おしえて!ドクター・ルースのとらキチのレビュー・感想・評価

5.0
劇場公開時鑑賞しましたがCSにて再鑑賞再レビュー。
80年代、アメリカで最も有名なセックス・セラピストであり、司会者、作家として活躍したドクター・ルースことルース・ウェストハイマーを追ったドキュメンタリー。わかりやすく言うと当時の人なら誰でも知っていたワイドショーのご意見番的な人で、映画「ジョーカー」でも彼女をモチーフにした人物が登場していたほど。
身長140cmと小柄で、ニコニコと陽気にドイツ訛りの英語でおしゃべりするドクター・ルース。だけど、実はホロコーストで天涯孤独の身となり、戦後はパレスチナに渡ってユダヤ人軍事組織に参加し、スナイパーとなるよう訓練を受けたという、とんでもない経歴を持った人。そんな境遇を潜り抜けてきたからなのか、“バランス感覚”がとても優れた強かな人という印象を受けた。
“レッテル”を貼られてしまうのをとても恐れるのか、孫娘に「お婆ちゃんはフェミニストだね」と言われても、それも嫌がり否定する。更には「政治の話しはしない」とも言うのだが、HIV/AIDSについての誤った知識にもとづく同性愛者への偏見への是正、妊娠中絶の権利の支持等々、彼女がこれまで行ってきた事は、「“ノーマル”なんて無いんだ」と社会に少なからずの影響を与え、多くの人達を救い、政治を動かしてきた。
そして、とにかくチャーミングな人。令和の今見ても、結構そのものズバリでどぎつい“性生活”についての話しをしているのだけど、小柄な彼女のキャラクターのおかげで、決して下品なモノにはなっていない。実際、彼女自身も「私が長身グラマーな金髪女性だったらこんな風にはならなかった」とコメントをしている。
それと、個人的に最も印象的だったのが、パーティーのシーンで「ちゃんと食べた?食べなさい」って周囲の人達にお腹いっぱいになるように食事を盛んに勧めていたところ。そんな姿に、同じ様な事を言っていた自分の祖父母の事を思い出して重ね合わさり、泣けて泣けてしょうがなかった。
そんなルース・ウエストハイマーさん、残念ながら2024年7月12日にニューヨークの自宅で亡くなられたそう。96歳。ご冥福をお祈りいたします。
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