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おしえて!ドクター・ルースのsomaddesignのレビュー・感想・評価

5.0
洋の東西を問わずお婆ちゃんは知恵袋

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90歳で現役のセックス・セラピストとして活躍するドクター・ルースことルース・ウェストハイマーを追ったドキュメンタリー。1981年、ニューヨークのラジオ局で放送開始されたドクター・ルースのトーク番組「セクシュアリー・スピーキング」。当時、誰にも相談できない性の悩みを明快に解決する番組は、彼女の明るいキャラクターもあってたちまち大評判。84年にスタートした全国ネットのテレビ番組は一大ブームを巻き起こした。ドイツで生まれ、幼い頃に家族をホロコーストで失い、終戦後はパレスチナでスナイパーとして活動したドラマチックな経歴を持ちながら、いつの時代も自分らしく生き、常に笑顔で前を向いて生きてきた彼女のドラマチックな人生に迫っていく。

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なんだか元気をもらえるドキュメンタリーだった。
もっと下世話でウヒヒヒと笑うドキュメントかと思いきや、一人の女性の半生を通じて戦争の悲惨さや、厳しい時代を生き抜くために大切なモノが見えてくるよう。

原題「Ask Dr. Ruth」をそのまま訳した邦題だけど、どことなく80年代少年マンガの保健ジャンルのタイトルぽくていい!「いけない!ルナ先生」みたいな。

思えば自らを慰める行為が、いつかする本番への予行演習だと習った思春期の入り口。その後一向に予行練習ばかりが捗って実践を経験することがなく「オ○ニーを育ててもセッ○スにはならない」と気づくには大分時間を要した気がします。自分が思春期の時にも、こんなあけすけな婆ちゃんがいれば良かったのに。

90歳で140cmの小さな体からは信じられない位エネルギッシュなお婆ちゃんで、いつでもスケジュールはビッシリ。長年彼女を支えるマネージャーの方が「そろそろ引退したいけど、彼女が引退しないから俺もできない」と音を上げるくらい。

これまで何度もドキュメンタリーの依頼を受けては断ってたそうで、90歳を迎えるのをキッカケに、自身の家族に人生を語り継ぎ、アメリカ社会の性教育について自分の役割を記録する必要を感じて、今回の映画化を受諾。
州によっては中絶はおろか、性の乱れを助長するとして性教育すらしない地域もあるそう。で、間違った知識のまま妊娠してしまった子供達や、誰にも相談できない性の悩みを聞くために設立されたボランティ団体で活動を始めたのがドクター・ルース誕生のきっかけ。
ラジオ番組を始めた80年代初頭はエイズの流行で世界中が震え上がった時期で、正しい性知識が求められたのかも。同性愛者への偏見が助長された時期でもあって、「エイズは神が同性愛者へ与えた天罰」とまで言われた当時のアメリカ社会にあって「二人の同意がある限り、どんなセッ○スも罪じゃない」と言い切った。
当時同性愛で悩んでた大勢の子供達に「同性愛は罪じゃない」と言い切って、勇気づけたガッツが凄い。

オープンな性格で明るくユーモアに溢れた話術(すごいドイツ訛りの英語も可愛い)で、あけっぴろげに性の悩みを解決する一方で、自身の生い立ちや両親のこと・辛い過去は決して語ろうとしない。明るさの奥にどうにもならない孤独や哀愁が漂う。

何度も戦争やイデオロギーに振り回された彼女が、『知識は誰にも奪えない』とばかりに年齢・性別を気にすることなくガンガン勉強して行く様がカッコイイ。戦災孤児で経済的な余裕もなく、働きながら独学を積むってだけですごいのに、ヨーロッパといえども女性が大学で学ぶことが珍しい時代だったハズなのに、どんどん知識を深めていく向学心がすごい。
アメリカに渡って、シングルマザーになってからも学ぶことをやめず、40歳を過ぎてから学んだ成果が以降の活躍の礎になってる。

男女同権・機会均等・中絶容認...今でいえばフェミニスト認定されそうだでけど本人は頑なに否定するのが面白かった。そんな言葉や概念が一般化されるより遠く昔から似たような事を感じ行動してるから、変にカテゴライズされるのが嫌なのかもしれない。


公開館数が少ないのがもったいない。
必ずしも映画館で見なきゃダメなタイプの作品ではないけど、小さなお婆ちゃんの大きな活躍と、その背景にある哀愁ドラマは一見の価値あり!

82本目
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