KAJI77

音楽のKAJI77のレビュー・感想・評価

音楽(2019年製作の映画)
4.0
あんなに好きだったあの曲が、ぱったりと静かに音を立てて、急に嫌になるということがある。

I love you.
今だけは悲しい歌
聴きたくないよ

そんな感覚に共感してはもらえないだろうか?
こと音楽に関しては、僕はかなり懐古趣味なところやアバンギャルド、プログレ好きな所があって(映画や文学にしてもそのケがある)、今作『音楽』で主人公のCVを務めた「坂本慎太郎」が率いた「ゆらゆら帝国」なんかは詐欺師の好餌とまではいかずとも、彼らのプレイリストは眼前にある決して腐らない風変わりで興味深いオードブルだった。

高校二年生の時に初めて彼らの楽曲を聴いて衝撃を受けたことは、今でも鮮明に思い出せる。僕の入りは『3×3×3』(1998)で、どの曲も好きだがアルバム3曲目の『ユラユラウゴク』という曲が大好きだった。

〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・
溺れているような
泳いでいるような
浮かんでいるような
沈んでいくような

愛されたい子は幻を
カセットテープで再生してる
大好きなあの人が
ゆっくり浸み込む感じがすてき

遅れているような
進んでいるような
途切れているような
続いてゆくような

あいまいだらけのこの体
カチッとハートに存在してる
だめなのさわかっちゃいけないの
青春もう一度再生してる

溺れているような
泳いでいるような
浮かんでいるような
沈んでいくような

朝に決めて
午後にくじけた
明日にきっと
明日こそきっと
朝に見つけて
午後に捨てた
明日きっと
明日こそきっと
〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・

この曲は、園子温監督の傑作『愛のむきだし』で主題歌だった『空洞です』に負けず劣らずの珠玉の1曲だと勝手に思っている。(あと好きなのは『無い!!』と『次の夜へ』。こちらも邦ロック史に残る名曲)

一体どれほど聴いたのか。朝、夜、放課後、授業中。狂ったようにヘビロテしていた。あの曲、その曲、この曲。
これほど心を掴まれる、生のエネルギーと死への期待感をもったバンドが日本にいたのだという事実に幾度も耳目を疑った。

しかし、何となく最近「ゆらゆら帝国」を聴くのが怖くなってきている。
というのは、彼らの音楽というのは一種のゆるいストーリー性とハッキリとした完結性を孕んでいて、彼らの出した「人間」という身近で難解な問題への明確な回答をこのまま鵜呑みにし続けてしまったら、あたかも自分がその考えを出したかのような擬似的な感覚を憶えて満足しきってしまって、まるでこれ以上生きる意味が見いだせなくなると思ったためだ。

今だけは聴きたくない歌。
「音楽」の持つ力は、たかだか五感の一柱を切り崩すことに留まらないのだと改めて認識した。
そんなこんなで、各方面でバカバカしい努力が求められるこの大学生の期間だけは「ゆらゆら帝国」を聴かないことに最近決めた。(ついでに言えば、同様の理由で「フィッシュマンズ」も聴かないことにした。何も考えられなくなるほどの脱力感がある。)

だから今はどのアルバムに手を出そうかと模索している。とりあえずは片っ端から今まで聞いてこなかった邦ロックバンド(「Eastern Youth」とか「銀杏BOYZ」とか)を聴き込んでいるが、オススメがある方は是非教えて頂きたい。何でも聴きます…!
KAJI77

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