ヨーク

音楽のヨークのレビュー・感想・評価

音楽(2019年製作の映画)
4.2
この映画の感想文を評論的に長々と書くのは野暮というものだろう。
なのでこの映画を観ながら思ったこと(思い出したこと)を簡単につらつら書くに留めておこう。ぶっちゃけ映画の内容とはあまり関係ない。いや少しは関係あるかも。
中学三年生の頃、誰もいない町に行きたくて早朝の4時とかに自転車で一台も車が走っていない幹線道路の真ん中を走行したり、始発が動く前の駅前で堂々とタバコを吸ったりしていた。兄の原チャリを拝借して線路の枕木の上を走ったこともあった。
高校一年生の時にギターを買ってめちゃくちゃに弾いていた。ギター初心者のあるあるだがFコードで嫌になってギターは友人に譲った。今思えばコードなんてクソだったのにな。
同じく高校一年の頃、自宅で親が寝静まった深夜に酒を飲みながら映画見ることが楽しかった。ビールは本数でバレるから親父の一升瓶から酒をちょろまかして飲み過ぎたときは水でかさ増しして誤魔化していた。よく見ていた映画は黒澤や小津やフェリーニで今思えば知ったかぶりで大人ぶったいけ好かないガキだったと思う。
さらに同じく高校一年の頃、学校に行くのが嫌で嫌でよくサボって近所の貯水池のほとりにある公園でタバコを吸いながら文庫本を読んでいた。制服姿のままでサボっていたのが悪かったのかきっと近所の人から学校へ連絡があったのだろう、ある日ジュネの『泥棒日記』を読んでいるときに生徒指導の教師がその公園へやってきてめちゃくちゃ焦った。「体調が悪くて朝から病院に行ったが鍵を持って出るのを忘れて自宅に帰れなかった、学校の鞄は自宅に置いていたので手ぶらのまま学校にも行けなかった」とかそんな言い訳をした気がする。軽く説教されただけで終わったが、多分咄嗟にベンチの下に隠したタバコの匂いには気づかれていた気がする。
高校二年になってからは友達も増えて学校に行くのが楽しくなったが、それでもずっと何かが不満だった。本を読んで映画を観てテレビゲームをして音楽を聴いてタバコを吸って酒を飲んで麻雀をしてバイクに乗って、そういうの全部楽しかったけれどいつも不満だったし何かに対して焦っていた。
そういう不満や焦りが元にあったからなのかは分からないが高校二年が終わる頃には俺は卒業したら東京に行こうと思っていたし、その思いは実行された。
そんな風なことを思い出しながら観た『音楽』という映画はクソみたいなクソつまんねぇクソ田舎でどうやれば楽しくサバイバルできるだろうかという映画のように思えた。何も変化がない場所でも楽しく生きていくためには自発的にそこにはない何かを求めなければいけないのだと思う。
別に田舎を捨てて東京へ出ろと言いたいわけではない。ただ、田舎の中にも外部はあってそれを求めなければずっと退屈なままなのだ。本作でのそれは音楽だった。ただそれだけのことだろう。
クソ田舎で暮らしながら自分の人生がクソだと思っている10代に観てほしい。お前が見てクソだと思っている世界はほんのちっぽけなもので、その外には多少はマシなものもあるから。
とても面白い映画でした。
ヨーク

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