ymd

音楽のymdのレビュー・感想・評価

音楽(2019年製作の映画)
4.2
音楽青春映画の傑作!
狂気とも言える手書きによって7年の歳月を持って作られた本作は、“音楽を描く”という難題に挑んだ原作の勇敢さを一寸も損なうことなく、映画らしい躍動感と音楽の衝動を見事に表現している。

何に対しても情熱を持てずに燻ることすらない不良3人がバンドを組んで夏フェスに出る、というプロット自体に奇抜さはないけれど、独特なセリフ回しと脇役に至る全てのキャラクターの強い個性、そして主人公たちのバンド「古武術」のあまりにもハードコアな音楽が相まって今作は凄まじいほどにオリジナリティのある他に類を見ない存在になっている。

とにかく素晴らしいのは主人公の研二の声を演じる坂本慎太郎。どこを切っても坂本慎太郎そのものの声は、感情を一切感じさせない抑揚を捨てたトーンで話し続けるのだけど、そこがこの男がどこか作中の中で浮き世離れている存在であることをより浮き彫りにしているし、何よりだからこそあのシーンが活きる(超絶名シーン!)。

坂本を声優に、しかも主演に迎えるというのは何ともチャレンジングにも思えるが、このハマりっぷり、そしてぼくのようなファンならずとも深く印象付けられる声の魔力は、今後声優仕事増えるんじゃないかと思わせたり。

どうもサブカル的な立ち位置で終わってしまいそうだけど、もっと広く観られるべきだし、ぼくが観た新宿武蔵野館では小さな男の子を連れた家族連れでこの映画を見ていた。とても素敵な光景だったし、そうあって欲しいと思わせてくれる傑作である、と僕は思うのだ。
ymd

ymd