はる

音楽のはるのレビュー・感想・評価

音楽(2019年製作の映画)
4.4
昨年から高評価が聞こえていたので、地元での公開日に鑑賞。ほぼ前情報を入れずに観たのでエンドロールのキャストを見ていろいろ驚いた。もちろん竹中直人だけはわかったけど。
ロトスコープで製作された作品ということで、個人的には好きな体験だった。その手法をとったのは岩井澤健治がアニメーターとしての素養がなく「自分でもできるやり方」だからということだが、観ればその判断が上手く作用していることがわかると思う。原作のタッチの延長にあって、なおかつ映像と劇中の「古武術」や「古美術」の演奏との親和性が非常に高いからだ。特に古武術の最初の演奏での「ボボボ」では謎の感動があるし、これで普通にいいよなと感じた。あそこでガッチリと掴まれるかどうかで今作の評価は分かれそうだが、もうここからはひたすらに楽しかった。それは使われている音源も確かなものだと感じたからでもある。

さてネタバレ。
「ボボボ」の演奏が何度かあったが、あのようにプリミティブなものをジワジワ味わうのも良かったが、「これで最後まで行くのか?」と危ぶんでもいた。だから研二が一旦離脱してリコーダーを持って現れた時は「そう来たか!」となる。そしてどのような演奏になるのかとワクワクが止まらない。良い演出だったと思う。ちなみにリコーダーの演奏は小林うてなが担当していたということで、彼女はスティールパンやマリンバ演奏が主戦場のようだが、劇伴を担当した剣持学人が「リコーダーも出来ますよ」という彼女の言葉を聞いていたからブッキングしたという。あえての「上手すぎない」辺りを見事に演っていたと思う。

実は、というか今作で最も魅力的だったのはやはり森田だろう。後で読んだ原作では彼の成長は描かれていないので、映画版でのオリジナルとなる。最初の古美術の演奏でグッとくるし、古武術の演奏に触れたときの森田の心象の描写も、過去の名盤のアートワークを組み合わせていたりして楽しい。森田の部屋にはとんでもない量のCDがあり、その中からキング・クリムゾンを太田にすすめるあたりは中々のヤバみを感じさせる。そういう森田の音楽面でのバックグラウンドを描いているから、彼がフォークソングを選択していたことに好感しかないし、その後の挫折を経てからの開花を見てたまらなくなる。

ロトスコープで製作する以上、ライブシーンもまず実写でおさめる必要があるわけで、それを実際に今作のためだけにフェス(のようなもの)を開催して、各バンドの演奏もそのまま使用されているという。その事実だけで感動的だ。今作を観たあとで思い返すことになるが、ロトスコープと音楽という組み合わせの作品は以前から触れていて、a-haの『テイク・オン・ミー』PV、レナウンのCM(ブルーハーツの『人にやさしく』にあわせて踊る)の表現などは当時から大好きだ。

今作を「アニメーション」の部分でどう評価するのか、意見が分かれるのだろうが、タイトルのことを思えば見事な出来栄えだったと思う。残念ながら上映期間が短く、再見は出来ていないがもし機会があるなら良い音響のところでまた観てみたい。
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