平均たいらひとし

音楽の平均たいらひとしのレビュー・感想・評価

音楽(2019年製作の映画)
4.5
~ビートルズも、キングクリムゾンも、アルフィーも、そして岡村靖幸さんも、誰もが抱いたサウンドの衝動を放つ手描き画~

大概の方は、自ずと財布の紐を固くする不得意分野がある事でしょう。クールジャパンと云われて久しいけれど、日本国民皆、切符を買って、アニメーション映画を見る訳ではないですが。

この全くもって、今の日本アニメの主流から外れた、不気味が和らぎ加減の妙な線画のキャラの71分映画を、特に、この時季、好んで見ないだろうけれど。それは、結構勿体ないと、言わせていただきます。

モテようだとか、デビューして世に出ようだとかの「煩悩」でなく、まさに、本当に、行きがかりから、高校の不良三人組が、バンドを始めて、誘われるがまま、町で開かれるロックフェスに出るまでを、起承転結のキッチリ引かれたレールを進むのではなく、三人組、特にリーダー格の研二の「心のまま」に進みながら、徐々に挿入される、演奏場面から、彼らの音楽への陶酔が、こちらにも次第に浸透して、クライマックスのフェス場面では、ロックバンドを扱った邦画では、かって、味わったことのない、プレイで、聴かせたい、声をあげたい、その原始的衝動が貫かれていて、薄っぺらなものでなく、熱が伝わって来る。

画像に上げた通りの絵柄でもって、当初は、妙に無言の間があくという、何か、アキ・カウリスマキ的な。それも、次第にリズムに代って。そして、三人が、楽器を持ち出すと、作画表現が、更に躍動してくる。楽器を扱う手つきから、演奏にのめり込むプレイヤーの髪の毛の揺れだとか、高揚してくる表情だとかの描写に、力が入って来る。

それと云うのも、本作が、一度実写で撮影してから、動きを手書きで写し起こす「ロトスコープ」という技法を用いているので、人間や背景の動きの臨場感が、際立ってくる。少人数、それも殆ど監督の手仕事らしい。7年掛て4万枚以上の作画による、デジタル処理による、ソフビ人形みたいな3D立体キャラクターを、CG背景に放つものが主流の中、途方もないアナログ作業の執念で、完成に漕ぎつけた。それだけに、作り手の原作、音楽への入れ込みの強さが、むき出しです。

メジャー作品の洗練されたCGアニメが、お客の顔を見て好みに合わせて作られた味の確かなディナーなら、本作は、俺流のお手製料理で、バタ臭い雑味も含んだ味わいだけれど、それに、統一感を添えて、キリッと風味を〆てくれるのが、ミュージシャン岡村靖幸さんの声の出演。専業声優でなきゃだめだとか抜かす輩も、ケチのつけようのない起用だった。あれは、ホンモノの表現者じゃなきゃ出来ないわ。かっちょええ~。