Inagaquilala

ジョアン・ジルベルトを探してのInagaquilalaのレビュー・感想・評価

3.8
日本で、一度だけ、ジョアン・ジルベルトの演奏を聴いたことがある。確か9月だったと思うが、まだ外気に暑さは残っているにもかかわらず、会場の冷房は、ジョアンの要望により切られていた。1時間半近く遅れて始まった演奏は、素晴らしいものであったが、途中20分ほど、ジョアンが固まってしまった。沈黙だけが支配する会場。ジョアンは眠っているのか、少しも動かない。その後、また演奏は再開されたが、やはり伝説通りの不思議な人間であることは、そのコンサートでも十分にうかがい知れた。

この作品は、このジョアン・ジルベルトを追ったドキュメンタリーだ。とは言っても、ジョアンにカメラが向けられるわけではない。2018年のリオでのコンサート以来、人前に姿を現すことがなくなった、彼を追いかけたドイツ人ジャーナリストの軌跡を追ったものだ。なぜジョアンでなくて、彼なのかといえば、彼、マーク・フィッシャーは、姿を消したジョアンを追いかけ(ついに会うことは叶わなかった)、その顛末を綴った著書を出版の直前、自ら命を絶ったのだ。監督のジョルジュ・ガショは、フィッシャーの著書を基に、彼がジョアン・ジルベルトを追いかけた軌跡を辿る。ジョアンの有力な関係者にまで会うが、果たして彼に会えるのか。そんなスリリングな興味とともに、冒頭の謎めいたホテルのドアのシーンが浮かび上がる。

もちろん、その間に、ジョアン・ジルベルの音楽の成り立ちや彼の生き方にまで、多くの関係者の証言で迫っていく。本人を追いかけたドキュメンタリーではないのだが、結果として、対象へと迫っていく手法は、なかなか巧みと言わざるを得ない。ボサノバの生まれたブラジルの風景なども楽しみながら、ジョアン探しの旅はなかなか楽しい。