幽斎

フレディ/エディの幽斎のレビュー・感想・評価

フレディ/エディ(2016年製作の映画)
4.0
テキサス州都オースティンのファンタスティック映画祭で絶賛されたドイツ製スリラー。秋のファンタスティックは、新人の登竜門として多くの配給会社が訪れる。同じオースティンのサウス・バイ・サウスウエスト(SXSW)はコンテストよりも夏のお祭りイベント、コレを売りにする作品は信用できない。新人女性監督Tini Tullmannはドイツ国内でも様々な賞を受賞。国内ではソフト化されずドイツ製Blu-rayのみ。WOWOW放送前にゲオでレンタル。

「イントロダクション」画家であるフレディは妻の浮気から相手へ暴力を振るった罪で息子の親権を剥奪されてしまう。事件後、幼少期に見たもうひとりの自分「エディ」が姿を現す。義弟より幼い頃に亡くなった双子の存在を知るが、その頃からエディはフレディの家族に危害を加え始める。果たして「エディ」は実在するのか?。

オチに新鮮味は無いが見せ方が面白い。ドイツ製なのでエンタメ感に乏しく、作品自体も地味で女性監督なのか、グロも無し。主演のFelix Schaferは普通にイケメンで、得体の知れない人物を上手く演じてた。ドイツらしい計算尽くめの脚本だが、其処には、Jean-Luc Godard的な哲学的要素も垣間見える。

プロットのセグメントを悟られない工夫が秀逸。「双子」「二重人格」「ドッペルゲンガー」「イマジナリーフレンド」4種のパターンまで考えられる。ドッペルゲンガーは言葉もドイツ語で、日本の小説では「復体」と訳されるが、死期が近い方が見る事でも知られる。イマジナリーフレンドはスリラー小説では「IF」と訳す事が多いが、子供の頃は誰もが通る道で問題無いが、大人だと厄介。本人の意思でコントロール出来るが、人格が暴走すると解離性同一性障害、精神疾患として扱われる。本作では擬態が実在する点を、どう捉えるかで別れる。

シンプルに「双子」として観ても違和感の有る演出が多く、最後まで観ると細部の表現技法に納得出来るパートも有るので、シュールな部分も含め他作品との差別化も際立つ。ドッペルゲンガー発祥の血なのか、結末は安易に予測出来ても演出の妙味で、最後まで興味を繋ぐ展開は悪くない。なぜ擬態が出現したのか?他の作品は此処の説明不足がシナリオをへし折る原因ですが、本作は明確に示されるので、真の結末のリアリティが上がる点も見逃せない。ドイツらしい金属的な乾き切ったラストで余韻まで楽しめる。

難点はハリウッド的な起承転結要素が薄い事。スペイン辺りだともう少し上手く出来たのでは?と思うが、北欧程の陰湿さは無く、フランスの下品さも無い。ドイツで国際的に通用するスリラーは稀。本作の成長した演出とドイツらしい硬質な肌触りは、一見の価値有りと前向きに褒めたい。

火サス風味のドイツ産本格派サイコ・スリラー。エンドロールもお楽しみ頂けます。
幽斎

幽斎