ヨーク

ミッドウェイのヨークのレビュー・感想・評価

ミッドウェイ(2019年製作の映画)
4.0
俺はエメリッヒ作品を全部観ているわけではないんですけどあれですよね、多分世間一般ではバカ映画の名手という認識で、ハリウッドの破壊王なんていう二つ名だって良くも悪くもそういうドンパチメインの劇場を出たら三歩で忘れるような内容のない映画ばかり撮っているというイメージからきているのでしょうね。
まぁ俺もエメリッヒ作品は半分くらいしか観ていないけれどそういう印象ではありますよ。初めて『インデペンデンス・デイ』を観たときなんて無知な上に血気だけは盛んな10代だったもんだから、なんて軽薄なアメリカ賛美の映画だ! こういう作品がヒットするから映画が芸術ではなく商品に堕落してしまうのだ! と青臭い憤慨をしたものだけど、しかしそれから数年経って見直してみたら割と作品全体に乾いたトーンがあることにびっくりもしたんですよ。表面的にはエイリアンVS人類のバカみたいで破壊的なアクション娯楽映画に見えるけどめっちゃ冷めた視点から描かれているような気もして何かハッとしたんですよね。何にハッと気づいたのかというと、この監督メチャクチャ性格悪いんじゃないだろうか…ということです。もっと言えばバカみたいな映画を撮ってそれを観て喜んでる客をバカにしてるんじゃないだろうかと…。いやエメリッヒがそんな意地悪な人かどうかは分からないし完全に俺の想像ですけどね、ですけど『2012』とか悪ふざけも甚だしいし、古くからのファンのイメージを叩き壊した『GODZILLA』とかも敢えて客の反感を買うようなゴジラのビジュアルに挑戦したとかそういうところあるんじゃないかなと思うんですよね。映画のテーマを俯瞰して、それと観客の需要とを相対化してどういう反応が来るのか楽しみに実験してるような感じもする。エメリッヒ自身がインタビューとかでそういうことを言ってたわけではなく俺が勝手にそう思ってるだけですけど、きっと彼は確信的かつ冷笑的にバカみたいな映画を撮ってそれに対する客の反応を眺めてニヤニヤしてるタイプの野郎だと思いますよ。いけ好かない皮肉屋って感じだがそういう皮肉が彼の作品の裏テーマになっているような気はします。とりあえずホワイトハウスを爆破しとけば喜ぶ客のことはバカにしてると思うね。私見ですが。
俺がそういう風に思うようになった理由の一つとしては『インデペンデンス・デイ』を観た数年後にエメリッヒがドイツ人だったと知ったことも少なからずあると思う。てっきりアメリカ人の監督がアメリカ万歳な映画を撮ったもんだと思ってたんですけど全然違ったんですよね。どこか乾いて冷めたトーンがあるというのもきっと外国人がアメリカ万歳な映画を撮ったからだろう。また、そういう意味では観客が何を求めているかのニーズに応えることができるクレバーで商売上手な映画監督なのだとも言える。その才能があればこそハリウッドの破壊王とまで言われるある種のジャンル映画を代表する監督にもなれたのであろう。
さてそれで『ミッドウェイ』である。別に軍事オタクではなくても大抵の日本人なら知っているであろう(知ってるよね?)前大戦の趨勢を決定的に決めたと言われるミッドウェイ海戦をテーマにした映画である。先に結論を書けば俺にとってはかなり面白かったです。そしてその面白さの理由というのは長々と上で書いたエメリッヒ特有のバカ映画担当監督的な部分もなく、派手な爆発やアクションで満足するだけの客に対する冷笑的な皮肉もなく、かなり真面目にミッドウェー海戦を映像化していたからです。まさかエメリッヒ作品で結構真面目に感動するとは思わなかったというくらいちゃんとした戦争映画だったんですよ。
しかし本作は別に作風がガラリと変わったわけではなくあくまでもエメリッヒ作品の延長線上で辿り着いた戦争映画なんですよ。単純な暴力の応酬とかは『インデペンデンス・デイ』ではスカッとしたり笑える描写として描かれていた。それは序盤で無慈悲に殺された人類が反撃タイムの後半で逆にエイリアンを躊躇なくぶっ殺すという感じだ。『ミッドウェイ』でもそういう暴力の応酬や暴力の連鎖は描かれるがそのトーンは全く違う。ドが付くほどシリアスな描写で米軍と日本軍の暴力の応酬が描かれる。そこには映画に暴力を求める観客への冷笑や皮肉はなくむしろ悲しみがあるんですよ。この映画の一番の見せ場であろう米兵の主人公の急降下爆撃のシーンでもそこで流れる劇伴にはどことなく悲しげな旋律が隠れている。ただの破壊的なバカ映画ならそういうテンションが上がるシーンで客の心がちょっと二の足踏むような劇伴にはしないですよ。そこにあるのはエメリッヒが一映画人として皮肉や哄笑よりも戦争のどうしようもないしょうもなさを描くことを優先したということだろう。それは俺にとっては感動的なことだったんですよ。
そこが最高でしたよこの映画。ラストもボロボロになった主人公の表情とか凄く良かった。神風アタックに代表されるような旧日本軍の戦争マインドも狂っていたけれどアメリカ軍における理想の英雄的な軍人像というのもやはり同じくらい狂っているのだと思い知らせてくれますよ。
それはそれとして派手なドンパチシーンは派手なドンパチシーンとしても面白かったし立派な戦争映画でした。
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