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ワイルド・ローズのmaverickのレビュー・感想・評価

ワイルド・ローズ(2018年製作の映画)
4.7
2018年のイギリス映画。カントリー歌手でシングルマザーの主人公を描く物語。


めちゃくちゃ良作で驚きだった。主人公役の女優も知らない人だったし、地味目な作品だったのでそれほど期待せずに鑑賞したのだが。主演のジェシー・バックリーの見事な演技、心に響くカントリーソング、胸に染み入る感動の物語と、素晴らしい出来栄えだった。音楽映画としても、人間ドラマとしても優れた作品だ。

カントリー歌手として有名になることを夢見て音楽活動を続けている主人公のローズ。だが彼女は犯罪に加担した容疑で一年間刑務所に入れられてしまう。その間、彼女の二人の幼い子供は母が面倒を見てくれていた。刑務所から戻ったローズだが、歌っていたクラブからは解雇され、二人の子供との距離も疎遠に。前途多難ではあるが、そんな中でも歌うことへの情熱だけは消え去ることはなかった。

ローズはまだ若く才能もある。だが前科者でシングルマザーの彼女に社会は冷たい。やれるだけの自信がありながらも、チャンスもお金もない辛い現実の日々だ。主人公が置かれる、こうしたやるせない気持ちは多くの人が共感する部分だと思う。夢と希望に満ち溢れていても、厳しい現実の前に意欲が奪われてゆく。音楽の才能がめちゃくちゃあるローズでさえ、夢を取るか現実を取るかの選択を迫られるのだ。

主人公ローズを演じたジェシー・バックリーは、吹き替えなしで劇中のカントリーソングを歌い上げている。その見事な歌唱力。魂のこもった歌声が心に刺さる。圧巻のパフォーマンスも素晴らしい。役柄に近付けるために少し増量もしたのだろう。パワフルでワイルドなキャラクターを見事に表現している。いかにも問題児な風貌。でも歌声を聞くとあっという間に引き寄せれるほどの魅力を持っている。擦れて気が強い部分と、ガラスのような繊細さを持ち合わせた演じ分けも素晴らしい。母である彼女の強さと弱さ。意思疎通出来なくて浮かべる悲しげな表情や、心を通わせて幸せを感じている表情など、母として見せるローズの多彩な感情もしっかり表していた。オーディションで選ばれた新星かなと思ったら、2016年の、テレビドラマ『戦争と平和』で注目されて本作に抜擢されたらしい。実力派の女優として強く印象に残った。これからのキャリアが楽しみだ。

ローズに現実を見ろと口うるさく忠告する母。本作は母と娘の親子の物語でもある。二人が対面するとても感動的なシーンがあるのだが、そこは思わず泣いてしまった。母も夢と希望を抱いていた頃があった。でも現実を見ることを選んだ。そういう話が心に刺さる。この母を演じているのが、イギリスの大女優で、大英帝国勲章も受賞しているジュリー・ウォルターズ。彼女の演技がこれまた素晴らしくて。ローズの母親だなと思わせる強い母親。いつまでも現実に目を向けない娘を叱咤するのだが、そこにはしっかり愛情がある。孫は可愛いが、だからと言って娘から子供を奪うようなことはせずに見守っている。あくまで子供には母親が必要なんだと。彼女は彼女でずっと娘を自分の手で育ててきたのだ。だからこそ娘に夢を諦めて母親として生きろというが、娘の人生を奪い取るようなこともしたくない。母の愛の深さ。それを感じさせる素晴らしい演技だった。


夢を追っている人の物語。どういう着地点とするのか非常に気になったが、そこも含めて大好きな作品性。ワイルド・ローズ、かっこいい。今の時代にカントリーソングというのがまた良い。心に染み入るね。
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