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マイ・エンジェルの海のレビュー・感想・評価

マイ・エンジェル(2018年製作の映画)
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幼いころ、母が身に纏うものはどんなものでも一番うつくしく見えた。古着のジーンズも会社の制服もブリジストンのウインドブレーカーも、世界で一番うつくしく見えた。百円で買った髪留めも、片方なくしたピアスも。本当に不思議な映画だった。あなたをすくいたいとか、あなたと一緒にいたいとか、あなたに愛されたいとか、そういった切なる願いばかりが停滞していて、そのために何をして何を言えばいいのかを誰も知らない。誰かと対することは、思ってる以上にずっと難しい。まっすぐ、まっすぐ泳ぎつづけるだけで、死までたどり着けるなら楽なのに。悲しみも苦しみも憎しみも、迎え入れなくたってついてくる。エリー、あなたがどんなに不幸でもトランプのゲームみたいにされるのはいやだよ。大人も子供もどんな人間も、引かれたカードじゃない、その残りでもない。『フロリダ・プロジェクト』で打ち上がったあの花火が、今夜は全然ちがう色をして見える。選ばれてない、残されていないよ。なにもかもを失った天使を抱きしめる、あと味は甘ったるくて、幸福のあしおとがする。
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