リミナ

犬王のリミナのレビュー・感想・評価

犬王(2021年製作の映画)
3.9
※原作未読

湯浅監督の最新作。
盲目の琵琶法師と異形のポップスターの2人が織り成すエンターテインメント活劇。

時代劇となると前提知識の有無で多少なりとも身構えてしまうもの。だが、物語の流れにはそこまで複雑さはなく、エンターテインメント性のある映像や音楽の後押しもあり、知識がさほど無くとも楽しめる作りとなっている。

映像面では、盲目の友魚が音を頼りにイメージする映像の表現が印象的。タッチの異なる抽象的なもので観客側にも意図が伝わりやすい。
作画も言うまでもなく全編に渡って見所有り。序盤における犬王のアンバランスな体を駆使した縦横無尽な動き。ときには顔も歪む生生しさのある表情など。また、群衆のモブも作画でありつつ、格好や表情のバラエティに富んだハイカロリーなもの。そうした要素を3Dならではのカメラワークで映していく映像は、劇場作品に相応しいものだったと思う。

音楽面では、時代・見た目上で本来存在しないはずのデジタルサウンドで不意を突かれた。新たな能楽の形として、唯一無二の新鮮さを感じさせる表現は、観衆もこんな気持ちだったのかもしれないと納得させられてしまう。本作と繋がりのある『平家物語』の劇伴でも用いられていたからこそ、自然と受け入れられるアプローチ。

橋の上でパフォーマンスし、観客の口コミで人気を拡大していく様子は、さながら路上ライブで活動するアーティスト。観客をも巻き込みながら熱狂させるその姿はスター。
時折、派手なステージのギミックで観客を驚かせるが、その際には裏方も映してある程度仕組みの分かる見せ方に。スターは1人では舞台に立てない。それを支えるスタッフが不可欠。

時代性に即したアナログ要素と斬新さのあるデジタル要素の融合。そのギャップが本作の魅力の1つだなと。

ただ、本作で気になるところがあるとすれば、一部のライブパートで同じ映像が反復的に流されていたところ。現実の楽曲で歌詞やメロディに同じフレーズを用いることはあっても、結果としてライブ感は損なわれる機械的な見せ方に感じてしまった。

あと、本作が作られる上で特に意識はされていないかもしれないが、コロナ禍でまだまだ制限の残る現実のライブシーン。もみくちゃになり歓声を上げる観客、それに応えるアーティストのパフォーマンス。世の流れに抗っていく反骨精神。あの日々を取り戻したいと重ねてみてしまう側面もあった。

最後に、ロックバンド女王蜂でボーカルを務めるアヴちゃんが声優という本職ではない形でもさらに評価されるのは嬉しいし、邦楽ロックとアニメが好きな自分には刺さる作品だった。
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