月うさぎ

ドリームプランの月うさぎのレビュー・感想・評価

ドリームプラン(2021年製作の映画)
3.6
テニスが好きで、試合の放映は良く観ていました。ビーナスもセレナも若い頃から見知っているつもりでした。でも、父親の事はそれ程気にした事はありませんでした。
この父あってこその彼女たち。
その「プラン」は確かでした。

本作『ドリームプラン(原題:King Richard)』は、世界最強のテニスプレーヤーと称されるセリーナ・ウィリアムズとビーナス・ウィリアムズをワールドチャンピオンに育て上げた事で有名な父リチャードが主人公。ウィル・スミスがオスカーを受賞した事でも良く知られているでしょう(受賞式のビンタ事件と同様に)
テニス経験のない裕福でもない家庭から世界の頂点に立つ選手が育つという驚きの実話ですが、その父の強烈なキャラクターに驚きます。

しかし、知れば知るほど疑問も湧いてきて
自分の目標、家族の為(実際は自分の野望のため?)に他者を半ば強引に利用して踏みしだく事に何の痛みも感じないリチャードに、どうしても共感を持てない自分が意識されてしまう。

キング・リチャードというタイトルには
そんな皮肉な意味も込められています。
この名前から英語圏の人なら当然、シェイクスピアの「リチャード3世」を連想するでしょう。狡猾、残忍、豪胆な詭弁家の代表者としての。邦題の「ドリーム・プラン」は甘甘で、本作のニュアンスを気づかせない為の作為的なものに思えますね。日本人はお人好しで美談が好きだから。

いずれにせよ「夢を叶える」ためには、「夢」を明確にし諦めない事、その為の努力を惜しまない事、スポーツの場合は特にそうだと思いますが親の恒常的全面的な後押しが不可欠な事、環境は自分で変えられる事が明確に理解できます。

子育てにポリシーもある。
知的であれ。という事です。
黒人差別を強烈に体験してきた彼だからこその、逆境をバネにするメンタルの強さがある。
ある意味で白人への復讐劇であったのです。

素晴らしいのは妻のオラシーン
強力な父権制の家庭かと思いきや、娘の為に闘う姿は父以上で、説得力があります。
セリーナが母のような人になりたいと話していましたが、こういう事なのかと感じました。

脚本もリアリティがあって夫と口論になる場面では事実に言及している台詞もあって驚きました。
一見仲良し5人姉妹と思うでしょう。
でも二人の間の子はビーナスとセリーナの二人だけで、上の3人のお姉さんは母の連れ子です。リチャードには前妻とその間の子を捨てて蒸発した過去があり、彼らへの愛情は示さず、訪ねてきたら追い払いました。(と、ちゃんと言っていた)
ウィリアムズ・ファミリー全面協力の映画なのに綺麗事で作られていない。それは確かです。凄いな。

エンドロールでご本人の画像と動画が流れます。顔は似ていないと思っていたのですが、一瞬見分けがつかないほどそっくりに感じてしまって、それ程きちんと世界を再現していた事に改めて驚きました。
コーチや実在のプロの雰囲気とかもそっくりなんです。サンプラスとか、カプリアティとか(アップはありませんが、だから似て見える)。サンチェスのテニススタイルも特徴を再現していたそうです。(テニスファン歴の長い夫・談)
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