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生きるのTSのレビュー・感想・評価

生きる(1952年製作の映画)
4.4
まだ黒澤明監督の映画は5本しか見てなく、そのどれもが安定していますが、これはちょっと別格ではないかと感じました。涙は流れないものの十分すぎる出来の傑作でした!

市役所の市民課長である渡辺は、部下からミイラと称されるほど、中身のない毎日を過ごしていた。そんなある日、彼は医者から胃癌の宣告を遠回しにされてしまう。。

いわゆる「余命系映画」ですが、最近紹介した『死ぬまでにしたい10のこと』とは雲泥の差。むしろ失礼にあたるくらいです(笑)
今作は、人が余命宣告を受けることにより、これまでの自分の人生を振り返り、残された時間に何が出来るのかということを如実に教えてくれる傑作です。

志村喬一本勝ちの映画です。アカデミー賞主演男優賞に選びたいくらいです(笑)まさしく名演。とくに印象的だったのは、物語の大半をしめた彼の「死んだ目」と、公園完成を見守る「生きた目」の差です。いわゆる目力というやつですが、目で言葉を話すとはまさにこのことです!
実際今作の渡辺はコミュ障なのか、面接なら即落とされるような辿々しい会話しか出来ません。
「つまり、その、、、」
というフレーズを何回聞いたことやら。。
しかし、それ以上にこの役者は目で訴えかけてるんですよね。
それにはヤクザ者も後すざり、、驚異というしかありません(笑)

重々しい映画ですので、娯楽映画とは到底言い難いですが、見ておくべき作品だと感じました。余命宣告をうけたから変わるとかそういうものではありません。確かに渡辺は行動は変わったかもしれませんが、本質的なところは変わっていなかったはずです。
自分が生きた意味、生きた証、それを残そうとするのです。
その集大成が公園建設でありました。
彼は残りの人生をこれにかけます。その必死さは凄まじいです。
そして、その公園は無事に完成、いわば渡辺の遺産のようなものです。

人々に喜ばれるだけでなく、渡辺の人生の意義というものも見出されたかと思われます。
そもそも生きる意味というのは難しい。働いて食べてりゃあ生きる意味には十分なります。でもそれは普遍的なものであり、一生に一度の人生であるため、もっと特殊な意味を見出すべきです。

また今作の評価としてもう一点素晴らしい箇所が、お通夜での役員の会話における官僚主義の批判です。
余命宣告を受けてからの渡辺は、その必死さ故に他の課長からは煙たがられていました。市民は公園を欲しているのに、職務怠慢かな、役員は必死にその問題に取り組もうとしない。

冒頭、市民の女性たちが役所をたらい回しされますが、それが当時の現状を物語っています。市民の求めるものと役所が求めるものは決して同じではないのです。
渡辺の死により、その悪しき現状に気付かされた役員たちは、檄を飛ばしあい、改善していこうとする動きを見せます。そこも素晴らしかったです。

またラストの公園のブランコにのる渡辺が印象的でした。
余談ですが最後のあの歌は若干ホラー(笑)『残穢』の吉兼家あたりの声を思い出してしまいました。

とにかく、まだまだ黒澤明監督の映画は見れていませんが、トップクラスの傑作だと感じました。60年以上前の映画なのに全く色褪せない、最新映画が必ず勝るのは映像美だけということを示してくれる良い例です。

ちなみに、珍しく三船敏郎が出ません。1950年代の黒澤明監督の映画で唯一三船敏郎が出ない映画だそうです(*^_^*)

僕も、生きる意味を見出したいと感じました!
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