あしからず

生きるのあしからずのレビュー・感想・評価

生きる(1952年製作の映画)
4.6
昔から死にふれる事が多いので生きるってなんだろうという事はよく考えることだけど、いつも映画の後半のお役所の人達みたいに何かを奮起してはまた日常に戻ってしまうを繰り返す。でもやっぱり生きてきたと断言したいという焦燥感もあって、志村喬演じる市役所の課長のように死を宣告されればきっとああいう風な行動を取るのかもしれないけどやっぱりそんな風に背中を押されないと革命できないのは情けないような感じがするが、死によって初めて生を意識するのは当然と言えば当然で、当たり前のようにある酸素に感謝する事はそうそうない。でも遅かれ早かれ何か生きた証を残し自分で満足して死ねるような、文字通り寿命を注いだ公園で歌を歌えるような最後は羨ましいなと思う。
いつ死ぬか分からないものを宣言されるのとされないのはどっちがいいのかな。死んでしまった後に後悔は出来ないけれど、今乗ってるこの電車が5分後とかに急に脱線して死ぬかもと考えるとやはりそれは口惜しいしいつ死ぬか分からないまま生きて行くのはつらい。
課長にとっては癌を宣告されてからのあの半年こそ人生で最も輝いていた時間だったろう。志村喬のあの素晴らしい演技がその裏付けになっている。あの死に絶望したギラギラした生々しい目が本当に印象的。
そしてあの死を宣告されてまもなく、ダンスホールでリクエストした命短しから始まるゴンドラの唄。空虚なのに妙にキラキラした目を見開いてとつとつと歌う志村喬を見て、ああこの人は本当にこれから死ぬんだと思った。それくらい壮絶で真に迫っていた。でも公園で1人ブランコに乗り同じゴンドラの唄を歌ってる姿は生命と慈愛にあふれていて、なんと言えばいいか分からないけれど、しみじみと人間の生を感じる。お葬式でみんなに印象と様子を語らせる構成もとてもいいな。
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