垂直落下式サミング

陸軍の垂直落下式サミングのレビュー・感想・評価

陸軍(1944年製作の映画)
4.2
親子三代の国への貢献を描く太平洋戦争中の国策映画。
田中絹代が出征する息子を見送るラストシークエンスは、この一年後には空襲で焼け野原となる戦時中の町並みをとらえたものであるため非常に資料的価値が高い。この映像は原恵一監督の『はじまりのみち』でも引用されており、当時この場面が「女々しい」と軍部に怒られたことで、木下恵介は映画を撮れなくなってしまったそうだ。
人物の描かれ方が単なるプロパガンダ映画とは異なり、時代の価値観とともに生きた庶民の心の機微を活写していた。ゴリゴリの軍人気質の父親たちが威張ったり、見栄をはったりして、日本男児たろうと努めている様子がマヌケに見える。こんなプライドの高い人は実際に居たのだろうけど、とは言え人の親なもんだから武士になりきれずに、息子を思ったり、国を案じたり、世間体を気にしたり、つまらないことで意固地になってバカみたいだ。
親子の会話で、文字通り「衿を正して」人の話を聞くシーンがある。こんなに形式ばった所作は今ではもう見ることはないだろう。