ちろる

陸軍のちろるのレビュー・感想・評価

陸軍(1944年製作の映画)
4.4
赤紙が来て出征に向かう息子の後ろ姿に万歳三唱する。
帰ってこれると思うな、お国のために死んでこいと本気で言う。
今思えば異様すぎる当時の戦争に対するあの頃の日本人の考え方の根底について、なんとなく理解させられてしまったこの作品。
なかなか戦地に赴く機会のなかった息子にもようやく出征のお達しが出ると、
「男の子は天守様の預かりものじゃけん、軍隊に出すまではドキドキします。」と安心した顔で知り合いに話す母の気持ちは裏も表もないように見える。
でもそうはいってもお腹を痛めて立派に成長するまで育てた息子である事実は変わりはない。
見送りに行かず、天守様にとっくり捧げたものだといって気丈にふるまう母親が抑えつけた思いははかりしれず、内なる思いと、信念が噛み合わないラスト数分間のシーンにはもう余計な説明はいらない。
軍国主義の家庭に育ち、極右の確固たる思想がアイデンティティとなって生きた高木の人生を描いた話に見えて実はお国に息子を差し出す母親のおはなしだった。

旗を振り見送る先にいる何十にもの若き兵隊たち、その中に同じだけの母親の哀しみが渦巻いているのだと思うとなんとも言えない。希望に満ちたラッパの音がただ虚しく感じて見終わった後、放心状態に陥った。
たとえ神風が吹かなくても日本は絶対に負けることはないと言い切った高木がこのあも終戦後に味合う気持ちはどんなものだっただろう・・・
遣る瀬無い、切ない、虚しい思いが入り混じるこの後味から考えてみれば、当時のお上が考える優等生家族を、描いているようでも一周してかなりの反戦映画だったのだとも思う。
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