カタパルトスープレックス

クイーン&スリムのカタパルトスープレックスのレビュー・感想・評価

クイーン&スリム(2019年製作の映画)
4.5
ビヨンセを含む数多くのミュージックビデオを手掛けているメリナ・マトソウカス監督の初映画作品です。ロードームービーであり、アメリカンニューシネマの影響を受けた映画であり、人種差別に対するメッセージを込めた社会派の映画でもあります。

まず、ロードムービーとしてクイーン(ジョディー・ターナー・スミス)とスリム(ダニエル・カルーヤ)の関係性の変化を描きます。ほぼ初対面だったのに、ある事件をきっかけでアメリカ横断の旅に出ます。そして、アメリカンニューシネマのようなアンチヒーローを描きます。作中でも『俺たちに明日はない』について言及されます。「アメリカンニューシネマのような」映画ですが、実際は違います。彼らはヒーローなのかアンチヒーローなのか?彼らにふさわしいのはハッピーエンドなのかアンチハッピーエンドなのか?

アメリカにおける黒人に対する人種差別の映画の場合、日本では身近に感じられないテーマになりがちです。それは、あまり人種差別を意識する機会がないからです。でも実際には日本にも人種差別はあります。この映画の舞台が東京だったら?主人公が黒人ではなく中国人や韓国人だったら?ガイジンだったら?日本でも十分に成立する設定です。

多くの日本人は自分が差別を受ける立場にならないから人種差別問題を自分に置き換えた考える機会があまりないだけなんです。実際にはどこにでもあるし、ボクたちの身近な問題なんです。そういう見方をした時、自分たちがクイーンとスリムの立場だったら?という問いかけだけではなく、自分たちが白人の立場だったら?と考えてしまいます。

ミュージックビデオ出身だけあって、映画『WAVES/ウェイブス』のような「プレイリスト映画」でもあります。使われる音楽のセンスがとてもいいです。ブラッド・オレンジの"Running Away"やローリン・ヒルの"Guarding the Gates"のような新作だけでなく、ロイ・エアーズ"Searching"やルーサー・ヴァンドロス"Never Too Much"のようなソウルクラシックが所々にアクセントとして効いています。

「痩せてた頃のルーサー・ヴァンドロスと太ってからのルーサー・ヴァンドロスのどっちが好き?」のような小ネタも音楽ファンにはうれしいです。