次郎

ガリーボーイの次郎のレビュー・感想・評価

ガリーボーイ(2018年製作の映画)
4.3
ムンバイを舞台とした、実話に基づくラップ・サクセス・ストーリー。概要だけ語るとインド版8mileな感じはあるが、その予想を超えてくる素晴らしさ。

8mileが貧困と逆人種差別からの這い上がりをテーマにしていたのに対し、ガリー・ボーイが描くのはインドにおける格差の現実とそこからの解放。カースト制度に基づく「使用人の子供は使用人」という考えは親達こそ縛り付けているものの、次の世代はもはやそこに囚われてはいないことにまずは驚き。主人公・ムラドは大学生活こそ満喫しているものの父親はしがない雇われ運転手、路地に面した家で暮らす生活も決して豊かではない。オープニングでスマホから流れるA$AP ROCKY 「everyday」のカッコ良さ。

また、本作の基底として常にポジティブなヴァイブスが流れているのが心地良い。ストリートが舞台となりながら、劇中曲「Mere Gully Main」の撮影風景では皆が思うインド的ダンスがヒップホップとの予想外なマリアージュを生み出してて絶対笑うし、印象的なフックは発音の快楽性が高く頭の中でループが止まらない。メレガリメレガリガリガリメッ。メレガリメレガリガリガリメッ。

それにしても流れる音楽のカッコ良さ。NASプロデュースということで全編トラックはオールドスクールかと思いきや、後半に行くに従って低音を強調したよりモダンな感じに仕上がっており、クライマックスにて披露される「Apna Time Aayeja(俺の時代がやってくる)」ではタブラを始めとするインドの楽器をティンバランド的洗練された音作りとして取り入れ、ディランの「時代は変わる」を想起させる優れたメッセージを投げかけてくれる。字幕監修にいとうせいこうが関わっているのもあってか、リリックの邦訳も韻を踏んで見事な仕上がり。

観賞後に監督が女性というのを知って驚いたのだけど、本作の「自分の生きたいように生きろ」というメッセージはムラドだけでなく彼女のサフィナにも通底しており、ムスリムでありながら自由に生きることはこんなにも美しいと教えてくれる傑作だった。
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