えいがうるふ

死刑台のエレベーターのえいがうるふのレビュー・感想・評価

死刑台のエレベーター(1958年製作の映画)
5.0
うっとりするほど美しく映像化された役者たちの立ち居振る舞いと街の風景、最高の音楽、なにより、呆れるほどガバガバなのにおさえるとこおさえてて進行に無駄がない恐ろしく秀逸な脚本。

とんでもない犯罪を堂々とやってのける割に笑っちゃうほど詰めが甘いジュリアンとそんな愛人を思うばかりに立場も忘れ夜の街をさまよう色ボケ不倫マダム・フロランスの大人カップルの痛々しさ。一方、若気の至りとは言えあまりにも行動が刹那すぎるルイとヴェロニクの恐るべき無軌道ぶり、それすら輝かせてしまうどうしようもない若さと美しさ。
この二組に共通するのはどちらも呆れるほどのバカップルという点。現実ならば揃ってただの身勝手な犯罪者である彼らをこれほど魅力的で愛おしいキャラに描いてしまえるのが、まさに映画の力。

確か10代半ばに背伸びして観たおぼろげな記憶のまま、20代の娘と共にこの度再鑑賞したわけだが、仏画の旧作は一切観たことがないという彼女に果たしてヌーベルバーグの面白さなんぞ伝わるかと思いきや予想以上に大ウケで、わいわいとツッコミをいれつつ実に楽しい時間となった。

異なる世代&価値観の相手と忌憚なく意見や感想を交えながら同じ作品を同時に楽しむこと。
まさに動画メディアの配信を同時に観て一斉にコメントを書き込むのと同じ環境なのだが、敢えてこうしたウォッチパーティ形式で改めて旧作を見直してみると、思いがけず新しい発見があり滅法楽しいことに気がつく。
長らく映画は映画館で一人で観る派だったが、技術が進歩したこの時代・この社会背景ならではの新しいやり方を取り入れることで、旧来の映画という極上エンターテイメントの楽しみ方の幅がさらに広がったようにも思える。

「映画はスクリーンで一人でじっくり観るもの」といった個々の拘りを貫くもよし、柔軟に新しい視聴方法を取り入れるもよし、みんな違ってみんな楽しい映画の素晴らしさよ。