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アルプススタンドのはしの方のtsuraのレビュー・感想・評価

3.5
青春に端っこも片隅もない。

みんなそれぞれが懸命で直向きで。

渦中にいるとわからないけれど、確かにその時のそれは、まさしく青春なのだ。

君がいる世界の中心は誰でもない、キミだ。



久々のまさに青く清々しい作品に心が晴れやかである。

所謂思春期の頃にある切なさとか、直面してる壁に苦しむ事とか、そんないろんな葛藤の中、もがきが色濃く描かれていて且つ良く出来ていた。


真夏のアルプススタンドの端の方、"しょうがなく"応援に足を運んだ田宮と安田。

2人がやや白けた面持ちで見始めた野球は近くに座った元野球部の藤野、ただ眺めるだけが背一杯、学年一成績優秀"だった"
宮下を巻き込み、痞えていた心のモヤモヤが野球の緊迫した展開と重なり夫々が様々な決断を迫られる。

ちょっと台詞回しがクサいかなとは思ったが、実際に高校の演劇部の顧問が書き下ろした戯曲の映画化で、その"青さ"にもある意味、納得。
(ちなみに本家はきちんと賞も受賞されています👏)

その上でこの映画が単なるインディーズ作品の中で、高い評価だけの範疇に留まっていないのは、その徹底した作りにもあると思う。

勿論、もとの演劇自体がこの様なフォーマットであったのだろうと思うが、それでも安直な脚色によって色を変えていないところが乙である。

ホラー映画さながらに「見せない」のだ。

野球がストーリーの軸の一つを担っているのに、敢えて見せない、この勇気。

語り手が力強く雄弁で無ければ出来ぬ勇気に拍手。

この映画ならではの構図、久々に嬉々として食い入るように見てしまいました。

渦中にいると自分が青春のどの辺りに存在しているのか、なんてぼやけ過ぎて分からなかったが、ふと"それは"過ぎたんだと悟る瞬間。

青春とはなんて儚いのか、でもそんな事、どうだって良いくらいの直球でぶつかってくる。

やっぱりいいよ。青春は。


蛇足だが、自分も高校生時代は吹奏楽部でこの劇中で、カースト最上位ながらその位置にいることに努力し、疲れ、葛藤する部長さんと同じくトランペットを吹いていたのだが、ここはあえて言うけれど。

野球応援で吹いてる時に吹奏楽部はこんなに余裕ありません!

もしかしたら自分達のところだけかもしれないけれど…あの猛暑、炎天下の中で試合展開に応じてトイレや水分補給を済ませつつ、暑さでバランスを失いがちな各々の楽器も守りつつ、自分のことは勿論下級生のケア(熱中症のリスク等々)を行いながら、バテた口を労りつつ…。
攻撃側になった時はどの曲順でいくのか…どの曲を直ぐ準備しておくべきなのか…挙げていけばキリがないボリュームを限りある時間の中でこなして忙殺されている!
負けたら負けたで、悲しんでる暇など全くなく、吹奏楽部はスタンド席を多く占めているからいる撤収時は邪魔者扱いなので、どうやって楽器を撤収したり自分達は退去するかも脳内シミュレーション…。

なので…吹奏楽部にあんな綺麗な青春の1ページはアルプススタンドの端っこでは起きていません!(少なくとも私にはなかった!😭)
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