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アルプススタンドのはしの方のdeenityのレビュー・感想・評価

4.4
この作品の勝手な印象としてよくある青春物みたいなイメージをしてたから当時全く興味はなかったんですが、実際評価は高くって気になってたんですよね。そしたら全然イメージと違う作品でした。

そもそも甲子園を目指す高校野球のスポ根物でも何でもありません。甲子園どころか地方球場で戦う一回戦とかのレベルで、何なら野球部員でもそれを応援する吹奏楽部でもなく、ただアルプススタンドの端の方で学校が応援しに行くからしょうがなく見に来ているだけの高校生に光が当てられた作品。何なら野球のシーンなんか一度も映らず、聞こえるのは場内アナウンスと打球音のみ。それをバックにただひたすら会話劇を繰り広げるといった感じの作品。

ちょっと予想外すぎて驚きましたね。でもむしろ全然いい意味での予想の裏切られ方だったので文句ないです。
正直スポーツはやってきましたが、高校野球ってあまり興味は持てなくて、試合観戦でいうと専らサッカーでサポーターグループに入ってたこともありましたし、だからそれこそスポーツマンの気持ちも端っこにいる気持ちもわかるような自分にはまさにブッ刺さる作品でした。

また主要キャラクターたちの会話が心地よいこと。先日『まともじゃないのは君も一緒』を見ましたが、ああいう早いテンポのやりとりというよりは、間をしっかり使ってクスクス笑える『セトウツミ』的な感じですかね。そこに『桐島部活辞めるってよ』っぽい空気感もミックスされているような未体験の作品でした。

全国大会をかけた大会に参加できなかった演劇部の安田と田宮。元野球部だった藤野。学年順位トップの座を譲ってしまった宮下さん。
この4人の根幹にある挫折感と、それをしょうがないの一言で片付けようとするも、そうふっ切るまでには至らないモヤモヤした悩み。

彼らはアルプススタンドの端に固まって自校が頑張っていても乗り切れなくて。そもそも彼ら自身が主役のように日の当たる舞台には立てずに追いやられているような状況で。
自校のエース・園田くんは凄い奴だけどもっと怪物のような松永くんを相手にしていて。その彼女で学年1位の久住さんはいろいろ気遣って気にしていて。フォームをバカにされセンスの欠片もない努力家の矢野くんはベンチで出番を待っていて。そんな野球部を応援したかった茶道部顧問の先生は暑苦しいほど檄を飛ばす。
青春ならではの葛藤と共に、いろんな人の存在によって少しずつ心が変化していく4人の姿が実に青臭く、しかしそれを許せるのが青春であり、彼らのキャラクターなんですよね。送りバントをする人生なんて、打席に立つだけ意味がないのか、それともランナーを送ることができるのを素晴らしいと感じられるのか。声を出したとて聞こえるはずがないと思ってやめるのか。届くと信じて声を出すのか。いやー、よかったですね。

作品イメージとのギャップも最高で、伏線回収もgood。ラストのオチの付け方も、「お前かい!」なんだけど、「現実ありえんでしょ」なんだけど、良かったで終われる作品。脚本は演劇部顧問の先生発信みたいですね。見事でした。
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