しめじろー

アルプススタンドのはしの方のしめじろーのネタバレレビュー・内容・結末

3.5

このレビューはネタバレを含みます

応援って不思議だ。絶対に声が届かないテレビ越しでもつい応援してしまうし、それがたとえ録画であってもつい勝利を祈ってしまう。こういう「声の届かない応援」は選手に何か影響を与えたいのではなく、選手がミスなく全力を発揮してほしいと、選手の頑張りがどうか報われてほしいと、この世界の理に祈っている気がする。

元々演劇作品ということもあり、画角、カット、演技、台詞どれも「演劇だなあ」という感じで、特に序盤は正直映画に乗れなかったです。演劇作品の映画化でもっと映画っぽくできている作品なんてたくさんあるので、単純にもったいないなあという印象。徐々に登場人物の関係性が描かれ、ストーリーの輪郭が見えてきますが、この根底に流れる「演劇だなあ」感はなかなか拭えませんでした。
しかし最後、みんなで立ち上がって応援する展開は、約束された展開とはいえやはり気持ちのいいものでしたね。アルプススタンドのはしの方からの声援。声は選手に届かないかもしれない。「選手に重ねて、自分自身に向けて応援している」という解釈もネットで読みましたが、私は違うふうに思いました。ていうかそんな理屈先行で応援している奴います?声は選手でも自分でもなく、世界の理へ向けて叫んでいる。こうなってほしいという夢を叫んで、祈って、その通りになってくれたら嬉しい。掛け値なしで叫んだ他人のための夢が応援だ。そこに他意も打算もないから美しいのだ。

理不尽と挫折ですっかりひねくれてしまう繊細な感情も、そんな乾いた感情にふたたび火が灯る瞬間も、若さだなあという感じ。エネルギーを思い出させてくれる映画です。
今では私もすっかり大人になり、立ち回りが上手くなったというか、欲の叶え方がわかってきたというか…。私が抱く「しょうがない」も「悔しい」もすべて本物なので、あまり響かなかったかもしれません。