こたつむり

フォロウィングのこたつむりのレビュー・感想・評価

フォロウィング(1998年製作の映画)
3.3
鬼才クリストファー・ノーラン監督デビュー作品。

世間には色々な御方がいらっしゃいますよね。
生い立ち、外見、性格は勿論のこと、趣味を伺うだけでも多種多様。天井裏を散歩したり、椅子の中に入ってみたり…履歴書には書けないような趣味をお持ちの方もいらっしゃるのです(犯罪に繋がる行為はお薦めしませんが…)。

そして、本作の主人公の趣味は…尾行。
見知らぬ誰かをそっと追跡し、その人の生活の一端を垣間見る―。誰でも「透明人間になりたい」と思ったことがあるように(好奇心旺盛な紳士ならば必ず通る道ですよね?)窃視は甘美な誘惑に満ちた行為なのです。

しかし、想像は自由でも実行したなら話は別。
誘惑に溺れたあとに待ち構えているのは…じわりと身を焦がす非日常。他人のプライベートに土足で踏み入るのならば、自分も同じ思いをするかもしれない…その覚悟が必要なのですね。

だから、イヤな緊張感に満ちた物語でした。
まさしく主人公の状況は“一寸先は闇”。ほんの少しの過ちが転落の原因となる…それが容易に予想できる展開なので、胃の奥がキリキリと痛むのです。しかも、時系列どおりに物語が描かれないので、尾行者を“追跡”するかのように脳内で再構築する必要があるのです。

これがね。結構、頭を使うのですよ。
糖分補給は確実に必須だと思います。また、モノクロ映画である…というのも、シーケンスを繋げる粗さを誤魔化すために選択した手法かもしれませんが、難易度を上げる結果にも繋がっていました。

だから、上映時間70分という長さは。
本作にはちょうど良い按配でしたね。
これ以上長かったら、脳味噌が焼け焦げていたことでしょう。

まあ、そんなわけで。
さすがはノーラン監督、と唸るほどに工夫に満ちた作品でした。しかも、低予算という制約条件を巧みに転換させて結果を出していますからね。本作が次作の『メメント』に繋がるのだな、なんて思うと感慨深いですね。

ただ、あえて難を言えば。
もう少し、時系列を操作する意味合いは欲しかったところですが…まあ、デビュー作ですからね。それを言うのは野暮でありましょう。
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