コミヤ

ホドロフスキーのサイコマジックのコミヤのレビュー・感想・評価

4.4
「精神分析は言葉だが、サイコマジックは行動だ」

色々問題のあった愛知トリエンナーレにて鑑賞。

ホドロフスキーが生み出した癒しのセラピー"サイコマジック"を自ら患者に施す様子を映したドキュメンタリー。過去作の映像を引き合いに出し、彼の映画表現は常にサイコマジックに基づいていたことを証明する。
「リアリティのダンス」で闇を怖がる少年を真っ黒に染めて闇と同化させるシーン、「エンドレスポエトリー」で「愛を与えないことで、愛の大切さを教えてくれた」と父を許すシーンなどもそれらしい。

科学に基づき、会話を基本としたフロイトの精神分析に対して、サイコマジックは行動を基本とした芸術であると定義している。タロットを用いて、未来ではなく現在についての理解を深め、癒す。そこに論理的なものは一切ないからサイコマジック処方後の患者の癒された顔を見て信じるしかない。それらは胡散臭いものばかり。例えば、自分の話を聞かない父、母、姉によって傷付いたとある男性の心を癒すため、彼らの顔写真が貼られた巨大かぼちゃをハンマーで割って、さらにその破片を彼らのもとに送りつけるというものがある。送りつけた後にスッキリしました!という男のコメントで会場は失笑が起きてた。後半、がん患者の女性に会場の人が両方の掌を向けてパワーを送り、10年後も元気でしたよ!という"ソーシャルサイコマジック"のシーンも本当かよ!と笑ってしまった。

その他、「女性は月経の血で自画像を描いて下さい」や「あなたの睾丸を握ります」など名言も沢山。

でもそんな非理論的なシーンばかりなのに、癒された人々の顔は演技だなんて疑うことのできないほど晴れ晴れとしたものであり、これを見ると自分自身も癒された気持ちになった。鬱病になった80代の女性を癒すシーンが一番印象的。

監督は大分お年を召していたけど相変わらずパワフル。芸術や想像力によって破壊や分断を癒そうとするホドロフスキーの魔法は今の世の中に必要なのだと思わされる。
コミヤ

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