ぴのした

ホドロフスキーのサイコマジックのぴのしたのレビュー・感想・評価

3.7
ホドロフスキーの考案した心理療法「サイコマジック」で、悩める人々が解放されていく様子を描いたドキュメンタリー。

自殺願望のある男性が墓地に横になり、死体に見立てた肉を体の上において鳥に食べさせたり、親子関係にずっと悩んでいた女性が、裸になって親から生まれる様子を再現したり――。

老若男女がホドロフスキーの助言に従い、言葉ではなく行動でトラウマに向き合っていく。その過程は一見すると理解不能なカルト宗教の儀式ようにも見えるが、ホドロフスキーの言葉の妙か、不思議と理にかなった”治療”のように見えてくる。

「リアリティのダンス」で印象的だった、夜の闇におびえる幼少期のホドロフスキーが、母に全身を黒く塗ってもらって闇への恐怖を克服したエピソードがこの映画でも挿入される。これが一番わかりやすい「サイコマジック」の例のように思うが、そう思うとホドロフスキーの映画はすべて「サイコマジック的」なように見えてくる。

このドキュメンタリーの中で特に印象的だったエピソードは、鬱のおばあちゃんに、毎日木に水をあげるよう教えるところかな。生きている希望を失い、涙を流すおばあちゃん。大樹に水をやることの何が癒やしになるのかと思うが、見終わった後は「水をやる=自分がその木と関わりを持つ=その立派な木の一部になる=自信を回復する」という理屈が通っているように感じた。

後半に出てきた父とのピアノ演奏の話も良かった。ホドロフスキーの映画は言葉にできないのに何かこみあげる感動があって危険だなと思う。