岡田拓朗

ソワレの岡田拓朗のレビュー・感想・評価

ソワレ(2020年製作の映画)
4.2
ソワレ

それは、ひそやかな永遠。

オンライン試写会で一足早く鑑賞させていただきました。

役者を目指して上京した岩松翔太(村上虹郎)は、その裏である犯罪に手を染めながら日々を食い繋いでいた。
演劇仲間とともに、生まれ育った海辺の街の高齢者施設で演劇を教えることになり、そこで働く山下タカラ(芋生悠)と出会う。
2人はある事件をきっかけに邂逅し、先の見えない逃避行を始めることに。

人生には自分だけではどうしようもできないこともある。
努力が報われないこと、自分が何者かになれないこと、才能がないこと、そして子が両親を選ぶことができない現実。

それでも生きていかないといけない。
生き続けていると、ある選択によって、人生に少しでも希望が見えるようになる可能性がある。

人生は選択の連続であり、それが偶然の産物だとしても、そのときに起こしたそれぞれの選択が、何もしなければそこで終わっていたかもしれない偶然を、かけがえのない出会いとすることもある。
それが犯罪からの逃避行であったとしても。

そんな逃避行を選んだ2人のこの世界の片隅にあるほんの少しの、でも2人にとってはかけがえのない永遠の物語。

境遇や状況、性格は違えど、お互い現実にもがき苦しむ者同士が、過去の自分と今の自分を取り巻く世界から脱するように、2人だけの世界を作りながら逃げていく。
翔太は罪を犯してしまったことをタカラと逃げる(を助ける)ことで、一種の贖罪をしているようにも見える。
自分たちは悪くないんだと、傷つくためだけに生まれてきたわけじゃないんだと言い聞かせて。

その中に必死で頑張ってるのに弱い者がいつも被害者となるこの世の中に対しての、切なる叫びが静かに訴えられてるような作品でもある。
ここは浮き沈みなく進んでいき、現実に同じような状況にある人がいるであろうことを想起させられ、より強く感じられたポイントでもあった。

説明的な台詞は排して、徹底的に情景と表情で状況や心情を訴えてくる。
訴えられる感情の中にも喜怒哀楽の喜と楽は、ほとんど感じられず、世の中に対しての怒りと過去がフラッシュバックする中で出てくる恐怖、そしてお互いの中にわかち合えそうでわかち合えないことがあることによる哀しみがあった。

簡単にこうだという答えを出そうとしてこない。
想像力を掻き立てられる。
これは監督自身も、その答えを簡単に決めつけるべきでないと考えているからなのかなとも思った。

ラストシーンがとてもよくて、実はどこかで出会っていたかもしれない2人が、お互いに出会いとして認識するのは、ちゃんとお互いの行動があったことを感じ取ることができた。

比較的「静」が多いから、「動」がより際立つ。

心情がちゃんと演技で語られるので、2人に寄り添い、感情移入しながら、余韻にも浸れる作品でした。

P.S.
とにかく主演2人の圧倒的な演技力とその佇まい、雰囲気に魅入った。
他の役者を思い浮かべることができないほどに、主演2人が本当によかった。
2人が纏い作り出す空気が凄い!
村上虹郎さんは、屈折した気持ちを持つ未熟な若者の葛藤を演じさせたら右に出る者がいないし、「動」の演技の印象が強い彼も今回は感情を爆発させる感じではない抑えの効いた演技もよかった。
芋生悠さんはとにかく表情から訴えられる感情の表現力が物凄い!
何を考えてるかわからなくても、どんな気持ちなのかがひしひしと伝わってきて、難しい役柄に移入させてくれた。
さすが100人以上のオーディションから選ばれただけはあるなというのと、よく選んでくださいましたという感じ。
今後が楽しみな女優さんです。
岡田拓朗

岡田拓朗