のん

映画ドラえもん のび太の新恐竜ののんのレビュー・感想・評価

3.8
善悪の対立を超えた決断の物語


「のび太の宝島」のキャプテンシルバーがそうであったように、脚本を執筆した川村元気は、今作のゲストキャラを勧善懲悪のような単純な対立構造でキャラクターを描いていない。


これは「月面探査機」の脚本を担当した辻村深月先生が、どっからどうみても純度100パーセントの悪役としてディアブロを描いたのと比べるとわかりやすいだろう。


面白いのは、そのどちらのアプローチも原作のドラえもんのリスペクトから生まれている点だろう。実際に川村元気はいちばん影響を受けた漫画に「ドラえもん」を挙げ、辻村深月先生は「聖書」と呼ぶほどに原作に対する愛が深い。



記念すべき大長編の第1作と、今の声優陣になってはじめての「2006」、そのどちらとも異なる「のび太の新恐竜」には明確な敵は存在しない。



迫りくる滅亡へのカウントダウンにどう立ち向かうのか、終盤の展開は川村元気がプロデュースを務めた「君の名は。」「天気の子」と地続きになっていて、のび太の決断も、これまでの映画と一見同じようにみせて決定的に異なっている。



勧善懲悪な物語どころか「悪」すら不在の世界で、のび太たちの決断は傲慢さすら感じるが、これはまさに「天気の子」における主人公2人の決断とリンクしていて、何が「正しい」のか、その危うさがとてもうまく落としこまれている。
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