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ブラック・レインのMOCOのレビュー・感想・評価

ブラック・レイン(1989年製作の映画)
4.5
「ニックさん、ニューヨークの上司から聞いた話だけど・・・」
「一緒の部署の二人の仲間が薬の売人から押収した金を取った、それだけのことさ」
「盗んだのか」
「金を自由にしてやっただけのことさ、ニューヨークはどこをとっても灰色なのさ」
「君も金を?」
「受け取った、でも後悔している」

監督 リドリー・スコット
出演
市警 マイケル・ダグラス
部下 トム・クルーズ(ガルシアの役)
上司 ジーン・ハックマン
ヤクザ 萩原健一(松田優作の役)
刑事  勝新太郎(高倉健の役)
大親分 藤山寛美(若山富三郎の役)・・・
 こんな「ブラックレイン」を観たくありませんか?
 ハリウッドから持ち込まれた最初の企画書は、そんなキャスティングだったそうです。
 日本の警察官は勝新太郎氏が演じるアルコール中毒の男、その役名は座頭市をオマージュした『市』・・・。

 萩原健一氏の説得にも関わらず、勝新太郎氏は英語のセリフに二の足を踏み、藤山寛美氏は多額の借金の全額肩代わりを出演条件にして話がまとまらず、東京ロケの許可がなかなか下りず企画は頓挫します。

 許可されない東京での撮影を香港で行うというハリウッド側の提案に、松竹の西岡氏なら京都のお寺での撮影ができると大阪を拠点に話はまとまり、萩原健一氏の提案で勝新太郎氏の代役となった高倉健氏はアル中役は経験がないため出来ないと断りシナリオ変更がされました。

 萩原健一氏は周りの反対と撮影が映画「226」の時期と被るほどずれ込んでしまったために自ら降板し、西岡氏もこの映画から手を引いてしまい、さらにシナリオは大幅に書き換えられます。
 
 京都のお寺での撮影はなくなりロケの大半はアメリカで行われました。
 ガルシアがバイクで追い詰められ日本刀で首をはねられるド派手なシーンも当初は地下鉄を待つトム・クルーズの背後に萩原健一氏が忍び寄り後ろから短刀を刺すという物静かなシーンだったそうです。

 萩原健一氏はスムーズに進まないことに嫌な予感を感じて、知人の方位学者に「西(撮影場所が大阪に変更)での仕事は命を落とす・・・」と言われ、北海道の親友の宮司にも反対され、姉の嫁ぎ先の盲目の大婆さんにも「その仕事はやめないと帰ってこれなくなります」と言われ、打ち合わせ中に起きた地震にアメリカの担当ディレクターが「先住民の言い伝えで、物事がうまくいかないときの真夏の地震は不吉な事が起きる予兆」と言われたことで降板を決めたそうです。

 萩原健一氏は「226」の撮影中に再度出演依頼があり不思議に思っていたそうですが、松田優作氏が癌のために撮影に支障が出ていたことを知ったのは後の話だったそうです。

 松田優作氏の葬儀に出た萩原健一氏はふと「俺の代わりに死んでくれたのかも」と口にしたそうです。


 松田優作氏は原田芳雄氏・萩原健一氏を強く意識していたため(原田芳雄氏の隣に移り住むほど敬愛し、デニムの上下を真似していました)か、二番煎じのキャラクターや過剰な演技のキャラクターが多く、松田優作氏の作り出すキャラクターに魅力を感じたことはないのですが、遺作となったこの映画で演じた新興ヤクザの親分は鬼気迫るものがあり、彼の主演映画で唯一好きな映画です。しかし、この映画の狂気の目付きも萩原健一氏は『「乱」の私の真似』と語っています・・・。


 汚職の嫌疑で内部調査を受けているニューヨーク市警察の刑事ニック・コンクリン(マイケル・ダグラス)は同僚のチャーリー・ビンセント(アンディ・ガルシア)と昼食中のレストランで、日本のヤクザの幹部と子分が刺殺される現場に遭遇し、追跡の末に男(松田優作)を逮捕します。男の名前は佐藤浩史、日本の警察に指名手配されているため、二人で佐藤を日本に護送するのですが、空港でニセ刑事に引き渡してしまいます。
 言葉の通じない日本で、捜査に蚊帳の外の二人は、逮捕前に佐藤がヤクザ幹部から取り上げた物が偽札造りの原版だったことを突き止めます。

 二人の監視を任されていた松本正博警部補(高倉健)はやがて二人と心を通わせるのですが、ニックの目の前に現れた佐藤がチャーリーを殺してしまいます。

 ニックと松本の独自の調査は法に触れニックは国外退去となってしまいます。

 国外退去の飛行機を抜け出したニックは訪れた松本の自宅で松本が停職処分になり謹慎していることを知り、捜査の協力は拒まれます。

 佐藤は親分菅井から奪ったニセ100ドル札の原版を返還条件に自由になる縄張りを要求します。
 ニックは菅井を訪ね佐藤を殺すことができるのはヤクザに関係のない私だけと話します。
 菅井からの情報は、佐藤が現れるのは4人の親分が集まり原版の取引がおこなわれる日時。
 チャーリーの仇を討つためにニックは菅井の手引きで一人取引会場に現れ・・・。

 停職処分中の真面目な日本人の松本は・・・。
 そしてラスト意外な・・・。


 大幅に書き換えられたシナリオは日本のヤクザ色が強く出ていたものからギャング色の強い作品になったのですが、その内容は面白く日本人キャストの意外性は受け継がれ、意外な人の出演が多く楽しめます。
 
 対決の場となる農場は畑の中に鳥居があったり、違和感のある日本の農場になってしまったのは残念です。
 
 萩原健一氏も勝新太郎氏も藤山寛美氏も亡くなられた今でも、当初の企画書で観たくてたまらない映画です。
 萩原健一氏が手にしたその企画書、読んでみたいものです。
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