「ルパン三世」はこれでいいんだよ。
オールドファンが大勢いる作品のフルCGアニメ化は「山崎貴」監督としては「ドラゴンクエスト」に続き2作目であり(ドラえもんはあくまで現役)、前作の壮絶なるちゃぶ台返しを知っている方なら、今作の出来には大いに不安を抱いていたに違いない。
かくいう僕も、山崎監督には以前からどこか不信感を拭えないところがあり、陰でこっそりと更新され続けている最近のルパン作品にもあまり興味を唆られていなかった為、今作への期待もほとんどない状態での鑑賞であった。
ちなみに、現在の20代後半以上の大人達は、夏休みなどを中心に短期集中的にTVで再放送されていたアニメシリーズや(地方だけ?)、一昔前までは毎年定期的に作られていた映画やTVスペシャルなどで主に親しんできた方も多いと思うのだが、今のキッズはルパン三世の事をどのようなポジションで認知しているのだろうか。
少し前に「名探偵コナン」とコラボした映画が公開されたが、それ以前からルパンを知る機会などあったのだろうか。
そのうえ、最近作られているシリーズは「モンキー・パンチ」先生に寄せたタッチに変更されていたり、放送が深夜枠だったり上映規模が最小単位であったりと、決してキッズが楽しめる作品ではないと思うし、そう考えると今作の映画化もやはりターゲットはルパンに馴染みのある大人に向けたものと言える。
そして、そのターゲット層に最も馴染み深いシリーズと言えば、77年〜放送の第2シリーズや「カリオストロの城」ではないだろうか。
それを踏まえ、今作で個人的に評価したい点は下手な冒険に踏み切らなかったところにある。
ルパンといえば、シリーズによって風合いやコンセプトがガラッと変わる作品であるが、今作は明らかに先述のシリーズを強く意識して作られており、ここ数十年で失われてしまったルパンへのワクワク感が、まさか山崎監督の手によって呼び起こされるとは夢にも思わなかった。
もし仮に、前作のドラクエ同様変なオリジナリティを加えて同じような事を繰り返していたのなら、もう二度と山崎監督のアニメ作品には手を出さないと心に誓っていた事だろう。
しかし、画面にはあの頃見た、あの頃好きだったルパン三世が確かにいた。
人によっては、過去作をかいつまんで踏襲しただけのような内容のこの作品を、作る意味はあったのかと疑問視する方もいるかもしれない。
しかし、僕からしたら新しい要素など、今作に限って言えば3DCGという事だけで十分であったし、CG作品は原作者であるモンキー・パンチ先生の生前の願いでもあったのだから、作られる意義としてはむしろそれが全てでも構わないくらいである。
そして、ルパン三世にはなにものにも代えがたい「様式美」があると思う。
例えば「お宝を盗もうと変装をしたルパンに「銭形」が手錠をかける」→「それをあらかじめ仕込んだ仕掛けでするりと脱出」→「途中まで逃げるが「インターポール」に一斉に飛びかかられ取り押さえられる」→「その隙間からパン1姿のルパンが飛び出してくる」など数々の"お約束"がある。
そしてなにより、結局捕まってしまうルパンを、爆走する「フィアット」で颯爽と助けにくる「次元」と「五右衛門」の頼もしい事よ。
この、原理を度外視した気持ちよさ重視の、コミカルかつ流れるようなシークエンスを堪能出来る事こそルパン三世の醍醐味であり、発展途上中であったアニメ界にルパン三世が生み出した燦然と輝く様式美は語り尽くせない程に多い。
言わば、その"クラシカル"な表現が、今の"ハイテク"技術で描き出されているだけでワクワクしてくるし、ルパンの人並外れた挙動もCGのヌルヌル感とは相性が良く、観ていて楽しさが溢れる映像が堪能出来た。
よって、今回の勝因は山崎監督がいつもお漏らししてしまう"自意識"を抑えて、"いつもの"ルパンに徹した事で間違いないだろう。
その事実だけでも、やはり今作における新規要素はCG化というだけでなんら問題はないし、オリジナルキャラやストーリーなどの"テンプレ"感や"大味"な感じも、言ってしまえば70〜80年代ノリそのものであるから、今作の随所に感じる様々な既視感は個人的には全く気にならなかった。
ただ、ラストシーンなんかは、まるっきりのカリオストロのオマージュなので、否定的な意見が出てきてしまうのも致し方ないところではある為、それらを懐古厨として懐かしめる方ならば今作は十分に楽しい作品となっている事だろう。