にくそん

劇場のにくそんのネタバレレビュー・内容・結末

劇場(2020年製作の映画)
4.0

このレビューはネタバレを含みます

山崎賢人さんがキラキラ感を殺して演じているのが新鮮。役と彼との間に違和感がなく、ちゃんと(?)又吉に見えた。松岡茉優さんは以前から上手な人だと思っていたけど、こういう役もいけるのは初めて知ったかも。ザ・こじらせとか天才料理人とかっていう分かりやすいキャラ付けのない、何と言い表すか迷うような役も、リアルにやれる人なんだな。感情を爆発させるシーンも、低い声で「私は人形じゃないよ」って言うシーンもよかった。

永田はなかなかのモラハラ野郎でイライラさせられるんだけど、それゆえに目が離せないという不思議なエンタテインメントになっていた。沙希ちゃんもわりと気持ち悪いところがある。わざとらしく笑って永田のご機嫌を取ったりとか。

なので全然、好ましい二人じゃないんだけど、それでも自転車のところは泣きそうになった。必死にしゃべり続ける永田も、もう何も言えない沙希もせつなくて。夜明けの時間帯なのか、青ざめた桜が綺麗だった。このシーンの長回しもそうだけど、画が本当に情緒的だ。行定監督の映画らしい行定監督の映画でうれしい。音楽もいいなと思ったら曽我部さんで納得。

沙希のアパートが下北沢っていうことで、下北沢の景色(再現)がたくさん出てきたのも、観劇好きには面白いところ。オンオフ劇場とかビレヴァンとかスズナリとか。吹越さんたちが劇場の客として本人役で出てきて、ちょっと笑った。「うお、吹越さんだ!」って言われてるのが、なんかウケるな。

--- 以下、がっつりネタバレ ---

最後、実家へ帰る沙希の荷造りを永田が手伝いながら、二人で話すうちに、部屋がいつのまにかセットになって舞台上にあって、そのセット内には永田しかいなくて、客席から大人らしい格好をした沙希が何度も「ごめんね」と言いながら観ているっていう、あの演出もなかなか純文学のノリっていうか日本の劇作家が書きそうな仕掛けで、嫌いじゃなかった。

現実の未来ではなくて、あの引っ越しのときに二人が思いをはせた未来だと私は解釈した。現実には、沙希ちゃんは観劇には来ないんじゃないかなと、そんな気がする。それでも、観に行く未来、観に来てもらえる未来を、二人があのときは同時に思った――っていうことだったらいいなと思う。
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