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劇場のushijimantohihiのネタバレレビュー・内容・結末

劇場(2020年製作の映画)
4.7

このレビューはネタバレを含みます

小説になる前段階の「すばる」に文章が掲載されて初めて読んだのが数年前。

小説を通して、永田と沙希が自転車で2人乗りするシーン、最後の台本を即興で読む箇所で涙が止まらなかった。
部屋で嗚咽を堪えられなかった。

ようやく映画館で観ることができた。

どうしてだろう。
脚本とか、演劇、音楽活動とかお笑い芸人とか何かしら自分が表現に打ち込む際に、一番身近な人が自分のことをどう思ってるのかが死ぬほど気になってしまうのは。
心の底では馬鹿にしているのかな、仲良いからなんとなく才能あるよって言ってくれるだけなのか、勘ぐってしまう。
結局何もかも自分が決めないといけないことなはずなのに。
大好きな人にさえ、言わなくてもよい言葉、態度をとってしまう。


沙希には死んでも才能が無いと思われることは避けたい永田の擦りむいた痛々しさと生々しさが本当に辛い、そして少し分かってしまった。

色々感じた。
自分が本気で良いと信じて表現したものが、誰かにとっては何にも引っかからず、自分が想定したように相手の心に響かず、周りの人から
「本当にあまり良くないし、響かないから別の方法を考えた方がいいよ」とストレートに言われたとき、顔や表情からその旨が読み取れるとき等はある程度耐えられても、大好きな人や親しい人が気を遣って言葉を選んでくれてると勘ぐってしまう自分の心持ちであるとか、その人が他の表現者の表現に陶酔する時の置いてけぼりを喰らった感じは本当に虚しい。

終始、沙希は永田を褒めるし、讃えるし、支えるし、愛するし、優しさの衣で包む。

なのに永田はその衣を剥ぐし、むしろ相手の言葉の裏側を見ようと躍起になる。そして沙希にかけてあげるべき言葉を見失い、言ってはいけない言葉を言ってしまう。

全てに気付いた時には沙希は森のような静かな雰囲気で、東京にはいられなくなってしまった。

どこからだろう。最近本当によく思う。
仲良くしてた友達とか、この人となら本当に心から情けないところも見せられると思っていて、でもどこからか歯車がズレたり、そんなこと微塵も思ってもないよってことを相手が思っていたり、自分が感じていたりする。
気付いたら離れていって、思い出になっていってしまう。

沙希が日々を見失い、酒に浸って、ある時通りがかりのカットモデルを探してる美容師に酷い言葉を浴びせられたと永田に告げるシーンで何故か涙が止まらなかった。

永田はマジで馬鹿だなって言うのはすごい簡単だけど、
こんなに人を見ることのできる映画ってやっぱり行定監督の世界観とキャストののめり込みがあるからだと思って震えた。

沙希の優しさが辛くて、一緒に代々木公園を歩いたシーンが最後に脳裏にフッと戻ってきて
あの時の笑顔が眩しかった。

「梨があるこの場所が一番安全だよ」って沙希の言葉が忘れられない。

もうごめんねって言わないで
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