hiyori

劇場のhiyoriのレビュー・感想・評価

劇場(2020年製作の映画)
3.7
行定監督、又吉原作の作品。映画館まで観に行くつもりはなかったので、primeで観れてよかった。邦画の良いとこと悪いところも詰まってて結果プラスに回った。予告見た感じだと山崎賢人の髭と長髪に作られた役感を感じてしまっていたが、観てみるとその胡散臭さも徹底されていると逆に見応えがある。対して松岡茉優の誰にでも優しく気を遣う女性もぴったりでその孤独感にも説得力がある。だからこそ純粋なラブストーリーの本質を感じることができる。行定監督の演出は非常に優れている。今作では特に光、色の使い方だ。人の優しさに怒りを感じ、そんな自分を惨めに思いながらヒモ暮らしをする男の心情が朝の青く白過ぎる空であったり、黒が強い夜そのものであった。また山崎賢人の背中を映すカットでは背景をボカシ、それ以外では下北沢の街並みや渋谷のユーロスペース前などで映し出し、彷徨いながらも夢を追うための街に存在し続けることの意義を肯定しているように感じる。特に印象的なのはオートバイの場面と自転車の場面だ。前者では互いに違う方向を向いているのに対して、後者では同じ方向を向いている。この変化に山崎賢人演じる永田の覚悟を感じる。
そしてダメだと思ったところは脚本だ。冒頭からナレーションに頼り過ぎていて映像で表現するという映画的要素を損なっているのは残念であった。またダメ男と優しい女という典型的な構図から抜け出せるストーリーテリングになれていなかったのも残念。単純と言わないまでも、より複雑な関係の方がリアリティがある。しかし、映画から伝わる精神の不安定さ、捨てられない夢、コミュニケーションの足りない関係性には誰にも通ずるものがある。
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