和桜

列車に乗った男の和桜のレビュー・感想・評価

列車に乗った男(2002年製作の映画)
4.6
元教師の老人と強盗を企む男の出会いと交流。対照的な人生を歩んできた二人はお互いの人生に憧れを抱き、共に過ごすことで夢の片鱗を実現させる。
自身の夢を疑似体験出来た時の満足そうな表情と、そう簡単に人生は変わらない現実が見え隠れする。

お互いが自分の人生に多少の後悔を抱きながらも、相手からすればその生き方は羨望の眼差しを向けられるものだという圧倒的な肯定感。
親の財産を継いで平凡に生きてきた老人は、アウトローな生き方に憧れ、銃の撃ち方を教えてもらう。一方で裏の世界で生きてきた男は、歴史ある屋敷での教養に満ちた生活に憧れ、スリッパを履き学生に勉強を教えたりする。今までは手の届かない、自分には無縁だと諦めていた世界を疑似体験していく様子がぎこちなくて可愛すぎる。
そして二人の長い人生にとってこの出会いは一瞬でしかないんだけど、これはきっと夢のような時間だった事を最後に痛切に教えてくれる。

なんといっても魅力的なのが、延々と見ていたくなるユーモラスな会話劇。一方的に喋り続けるのは老人の方なんだけど、寡黙な男がたまに発する言葉がまた良い。「自信を持て、年を取るほどに輝きは増すものだ」は特にお気に入りの言葉。
旧友ではなく薬局で初めて出会った、しかも数日しか経っていない正反対の二人の仲が絶妙なんですよね。距離はあるけど、妙な信頼感もある。お互いの隠し事や、別々に行動している最中にも妙な残り香を感じる。お金を貸す云々の問答も好きだったな。
ラストの解釈は別れるだろうけど、個人的にはこれ以上ない終わり方。主演のジャン・ロシュフォールとジョニー・アリディは同じ2017年に亡くなってしまい、ここにも妙な因果を感じてしまう。


そして、久しぶりにこの映画を見たのは、ジャン・ロシュフォールが亡くなってから今日で三年経ったからでもある。フランス映画と言えば、今も彼の顔を思い浮かべるくらい大好きな役者さんだった。
小さい頃に苦手意識を持ってしまったフランス映画の魅力に気づかせてくれたのが、ロシュフォール主演のルコント監督作品郡で、この作品はそんな二人に相応しい見事な締め括りを見せてくれた。自分のオールタイムベストでもあります。
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