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死霊魂のmhのレビュー・感想・評価

死霊魂(2018年製作の映画)
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1960年前後の中国の労働改造所(夾辺溝農場、夾辺溝収容所。および、明水と呼ばれた土地の開拓)の過酷な実態についての八時間超えドキュメンタリー。
1956年フルシチョフのスターリン批判からの流れで、中国でも「百花斉放百家争鳴(1956-1957年)」が行われる。その後すぐに真逆の「反右派闘争(1957年7月-1959年)」となって、知識分子の一部が批判大会の壇上に。
右派分子の炙り出しならまだしも、あちこちの自治体で行われていたのは、右派分子のレッテル貼りであり、ひどい場合は、派閥争いの相手を陥れるためにこの運動を利用していたとのことだ。
3200人もの収容者のうち、生きて帰ったものは500人。高齢になっているそのサバイバーたちに話を聞いて回っている。
ワン・ビン唯一の劇映画「無言歌(2011)」の取材時の素材と、2017年頃の追加取材で構成されているんだと思われる。
夫を訪ねにきた妻→夫が死んでいる→墓を探すも見つからない。
何人かがこの話をしている。数々の証言を集約したものとしての「無言歌」の完成度が高かったことを間接的に知る。
証言者のみなさんは、元教師という出自のかたが多く、話がわかりやすくて面白かった。どの国の教師も、反体制になりがちなのかもしれないね。
右派ではないのに冤罪で連れて行かれたというひとが多いいっぽうで、反体制的な取材に答えてくれるということは推して知るべしといったところか。
途中、ワンビンに公安がきたと知らせるくだりもあった。
推して知るべし関連では、カニバリズムも挙げられる。
奇しくも「大躍進政策(1958-1962年)」によってもたらされた「中華人民共和国大飢饉(3年大飢饉とも1959-1961年)」とまるまるかぶっている。中国版ホロモドールという認識でまちがってなさそう。民間でも人肉食が行われていたとのことなので、夾辺溝がとりわけひどいというのはちょっとミスリード気味。
基本はフィックスのカメラで画変わりに乏しい構成。ひとつひとつの証言はショッキングなんだけど、それが繰り返されるうちに麻痺して、眠たくもなってくる。
カニバリズムをクライマックスに持ってこないあたりが、現代のドキュメンタリーって気がするね。
反右派闘争が終わりを告げるきっかけとなった作中「西蘭会議」はググってもヒットしなかった。廬山会議のことなのかな?
最後に登場する女性の口からは「文化大革命」という単語も飛び出した。ワンビンの次回作はもしかしてそれなのかなぁと思ったけど、そうなるといよいよワンビンの身が危ない。
闇に葬り去られそうになっている中国の歴史を、命がけで伝えるワン・ビンには感謝しかない。
ただまあ、個人的には「鉄西区」のほうが好きかな。
残るドキュメンタリー巨編「収容病棟」も見たいんだけど、買うしかないのかなぁといったところ。
面白かった!
mh

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