Nasagi

死霊魂のNasagiのレビュー・感想・評価

死霊魂(2018年製作の映画)
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『鳳鳴』『無言歌』と反右派闘争について撮ってきたワン・ビン監督の集大成。3部構成で約8時間半あり、そのうち7時間ちかくがインタビュー映像で占められている。途中で2回休憩があるとはいえかなり体力的にきつかったが、映画館でみる価値はおおいにあると思う。
暗闇の中から語りかけてくるかのような生存者の肉声、死者の嘆きのように吹き荒れる風の音…
もともと反右派闘争は、多くの方が名誉回復こそされているものの、中国においてタブーとして語られてこなかった歴史。
犠牲者たちの供養も満足にされず、明水収容所の跡地には無数の人骨が野ざらしにされたままとなっている。
生存者たちは不名誉な扱いをうけながら、その多くがこれまで口をつぐんできた。
さらに10年以上にも渡る本作の制作期間のなかで、その生存者たちもどんどん寿命で亡くなっていく。

このようにひとつの巨大な事件が風化し、歴史の闇に消えていくなかで、映画はどれだけそれを記録できるのか。まさに壮大なテーマ性をもった作品だった。

大躍進政策の失敗によるとてつもない飢饉(2000万〜4500万人が死亡)がかさなる時期だったこともあり、生存者たちが話すのはとにかく飢え、飢え、飢えのとこと。
生き残ることができたのは食糧班など、なんらかの理由で配給とはべつに追加の食べ物を入手できた人がほとんどだったそうだ。
生存者のなかに、「死んだ仲間のおかげで自分の命は助かった」という心境を吐露している方がいた。
これは収容所での死者があまりにも増えすぎたことが、結果的に上層部が収容者の「救済」を決定するきっかけになったという経緯があるためだ。
犠牲者にたいする彼らの思いも、それだけ特別なものがあるのだと思う。


ワン・ビン監督はこれほどの大作をなぜ、ほとんど証言だけで構成することにしたのか。
個人的には、『ショア』のような表象の不可能性という問題意識とはまたちがうのかなと思った。それよりは、純粋に1人1人の証言の重みに対するリスペクトが前面にでた結果なのかなと。
インタビュー場所となる生存者の自宅の様子がカメラに収まっていることで、ほんとうに「お話を聴きに伺ってる」感じがしたというか。
老人たちの家を訪問し、かれらに敬意を払いながら、その語りに真剣に耳を傾けるというワン監督が行ったことを、観ているこちらも追体験しているような気持ちになった。


反右派闘争で用いられた「右派」というレッテルは、究極的には党批判をする者にはだれでも適用可能なものであり、さらには多くの人が語っていたように、上司から個人的に嫌われたせいで右派に仕立て上げられてしまうというような冤罪が横行していた。
共産党の権力が絶対化されていくなかで、党の決定に対して逆らうことはおろか、控えめに意見することすら危険になった。

終盤で収容所の元職員へインタビューするシーンで、「お前ならどうする?」という監督(観客)への問いかけがあった。
もちろんここまで話を聞かされてきて「いや、それでも自分は反抗します」なんて簡単に言えるわけがないが…

ただここで末端の加担者となる道をえらべば歴史は繰り返されてしまうと思うので………自分はそうはなりたくない。
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