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ウォーデン 消えた死刑囚のラウぺのレビュー・感想・評価

ウォーデン 消えた死刑囚(2019年製作の映画)
3.8
イスラム革命前のイラン。移転の最終段階の刑務所で移送されたはずの囚人が一人行方不明になる。所長はこの後の栄転も決まり、こっそりガッツポーズをするなどしていたが、囚人が消えたとなると自身の栄転も危うい。囚人はどこかに潜んでいると睨み、所内を徹底的に捜索するが・・・

時代設定がなぜ革命前なのかは不明ですが、所長の部屋にはシャー(シャアではない)・パーレビの肖像が飾られ、テレビはブラウン管、音楽はレコードと70年代ごろの雰囲気を伝えるアイテムはしっかり登場しています。
穿った見方をすれば、自身の保身が最優先といった感じの官僚主義的所長の立ち位置が革命後のイランでは描きにくいのかもしれません。

セットなのか実際の刑務所跡なのか、古びた感じの刑務所がいかにもな雰囲気を醸し出し、密室でのサスペンス的舞台装置としては充分な存在感。
所長役には『ジャスト6.5』の麻薬組織の元締めの人と同じナヴィド・モハマドザデ、女性のソーシャルワーカーの人も『ジャスト6.5』にも出演。
強靭な意思と自らの行動美学に貫かれた犯罪者から今度は職務に忠実ながら人間臭いところも見せる所長役と雰囲気は大きく異なるものの、ナヴィド・モハマドザデという役者はなかなかに存在感のあるところを見せる人だと思います。

移送の前後で囚人の数が合わない、というところからの物語はミステリー要素のフックとしては充分なのですが、物語全体としては、なかなか真相にたどり着かず、謎が謎を呼ぶ的物語運びに乏しく、単調な感じが否めないところは、少々惜しいところ。
90分という上映時間が思いのほか長く感じられます。
とはいえ、囚人が実は冤罪の可能性のある死刑囚であり、家族や関係者まで登場して忽然と消えた事情が次第に明らかになってくるところ、刑務所の取り壊し期限が目前に迫ることでいよいよ立場が危うくなる所長の焦りなどが積み重なって、後半に行くに従って緊張が募っていきます。

ミステリーとしては手堅いところで着地した感のあるラストですが、途中に延々と引っ張ってきた物語のオチとしてはなかなかに気の効いたエンディングが用意されていたと思います。

『ジャスト6.5』と本作は同時配給ということなのか、ホームページもパンフレットも共通という一種の相乗り状態ですが、両作品とも邦題の付け方に似通ったトンデ感が漂いながらも、ひねりの効いた物語といい、人の心の温もりも感じさせる風合いといい、なかなかに良作だったと思います。
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