すず

イントゥ・ザ・スカイ 気球で未来を変えたふたりのすずのレビュー・感想・評価

4.0
空は解放されている、映画は解放されていない

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原題:エアロノーツ(飛行士)

【天空の城ラピュタのような世界】
気球が上昇していく様はまるでラピュタ。ぷかぷかと昇っていき、青い空と白い雲が広がる見晴らしのいい景色。
見たことのない虹の形。鳥よりも高いところを飛べる蝶。なんてきれいな光景だろう。劇場で観て正解だった。なんならIMAXで観たかった。
しかし、空のというのは…未知というのは…怖さの面もあって。

【未知へのチャレンジ】
先駆者というのは命懸けで探究していた。嵐、未知の領域への上昇。
今でこそ気象予報があって当たり前だが、予測するためにデータ観測を命懸けで行っていたなんて。パラグライダーをやってみたいと思っている自分には気球は安全で可愛いものだと思っていた。
だけど全然違った。観た人はきっと気球が怖くなるだろう。
甘くみたら痛い目を見る。チャレンジには見極めが大事。まだいけるだろう、やれるだろうが油断になって命を落としかねない。
空と星の間、空と宇宙の間、人間が宇宙服なしでいられる最高点で試される探究者。

【実話ではない】
実話に着想をえたものであって実話ではない。
このチャレンジと偉業を成し遂げたのはジェームズ・グレーシャーとヘンリー・コックスウェルの2人の男性。挑戦した年齢ももっと上。
しかし、この作品ではコックスウェルは描かれないのである。代わりにアメリアという架空の女性が活躍するストーリーに変わっていた。複数のモデルの1人にコックスウェルが含まれている。
男女ともに夢を追うことが許されている、女性も活躍しているという昨今の風潮を取り入れたかのような脚本だった。
この情報を知ったのは鑑賞後。鑑賞直後は女性が逞しいストーリーとアドベンチャーな映像体験にとても満足していたのに、もやもやしてきた。

【敬意と独占配信】
情報を知ってしまった今、思うのは偉人たちへの敬意が感じられない。コックスウェルなくして達成できなかったのにどうしてグレーシャーだけを取り上げたのか。グレーシャーの名前も変えてモデルにしたならまだわかる。1人だけ実在の人物なのが納得いかない。
もう1つ後で知った情報がある。IMAXでの上映も視野にあったということ。
アマゾン独占配信にも関わらず、IMAXでの期間限定上映も検討されていた。
なのに、合意に至らず断念。この映像はこの作品はIMAXで作ったらもっと観てもらえる可能性があった。
独占配信という形が作品の可能性を殺している気がしてならない。
映画は年齢制限や国による規制こそあれど、観てもらってなんぼだと思う。劇中の言葉「空は解放されている」に倣うならば「映画も解放されている」べきだ。
どうしてもこの作品は観てもらえる機会を狭めている。映画好きにとって作品に日が当たらない、日の目を見ないことは悲しい。映画をもっと開放してほしい。
そして映画館で見る機会を奪わないでほしい。
Netflixやアマゾン独占配信作品を少ないながらも上映してくださる映画館に感謝。

【総評】
作品の背景はもやもやすることが多いが、スコアには反映しないでおこう。
実話でなく女性活躍のアドベンチャーとしてみるならば映像体験として素晴らしいと思う。
劇場で観ることをお勧めします。



~~以下、ネタバレ~~





グレーシャーをみんなもっと頑張れとか役立たずとか言っていますが、彼が動けなかったのは事実です。彼は減圧症だったそうです。-15℃の世界。持ってきた伝書鳩も死んでしまうような場所ですから。まぁ劇中では防寒着を準備していない何とかなるだろうと思っていたグレーシャーの甘さが招いたとも言えなくないが(笑)それだけ上空1万メートルは過酷で体に異変が起きてしまうところだったということでしょう。
そんな中バディのもう1人が動けたことの方が驚きです。コックスウェルも減圧症でしたが、下降するために必死で成し遂げたようです。高所恐怖症の人にとって上空1万メートルで気球の綱をいじったり、劇中のように気球の上まで昇る、
ましてや命綱一本で真っ逆さまに落ちるのは肝を冷やすことでしょう。
本当に良くやってくれました。
気球で昇って降りてくるだけの単純とも言える作業にこれほどのアクシデントと見たことのない景色があった。
上映時間と同じ時間で進む高度と時間軸のグラフはわかりやすかったです。
降りてくるところはハラハラしてあっという間でした。


参考文献
19世紀に人類史上初めて気球で1万メートル上空に昇った男たち
https://gigazine.net/news/20160504-19th-century-balloon-flight/
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