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Mank/マンクのtsuraのレビュー・感想・評価

Mank/マンク(2020年製作の映画)
4.3
素晴らしい作品だった。

市民ケーンという稀代の傑作が出来上がる迄を脚本家ハーマン・J・マンキーウィッツと実際のメディア王ウィリアム・ハーストになぞらえつつ、彼等の変遷と周辺の人間模様とを絡めながら、その作品が醸成される迄を本当に楽しく描いている。

本家に対しリスペクトを交えつつ、デヴィッド・フィンチャー監督は劇中のマンク同様にこの歴史上最高傑作の一つに勝負を挑んだのでは無いだろうか?と思うほどに野心的な香りも作品から立ち込めており、それは構図から、見せ方、音楽、ストーリー構成に至る所まで…随所に真似事を超えてオマージュを超えて、ヒリヒリとする様なチャレンジ精神の下に勝負に挑んでいた様に思う。まぁ結果大成功だったと思うが。

前後するストーリーのそれはまさに本家さながらで多少の疑問点などを抱えつつもどんどんと目まぐるしく変容してく様はまさに市民ケーンであった。

それにしてもあの「市民ケーン」にこんなにもユーモアたっぷりなストーリーが隠れていたのか…これだけでも十分ドラマチックなのに、まさに事実は小説よりも奇なりなのだが、今作はそれを図書館の古き蔵書の様な語り口ではなく寧ろ黎明期の無声映画の様なドタバタの様相でストーリーを畳みかけてくる。もう圧巻の勢いで。

それを巧みに舵取る脚本、編集こそまさにさながら市民ケーンで、更にそれを牽引するハーマン(マンク)を演じたゲイリー・オールドマンの演技は矢張り秀逸であったが、少し道を逸れるがこの作品を見ていると「市民ケーン」の物語は良くも悪くも全てを曝け出したハーマンの自伝の様にも感じた。
彼がハーストに抱いた全ての感情がこの作品を通して市民ケーンへ帰還している様な…不思議な印象を抱いた。

世間が仰る通りアマンダ・セイフライドの助演ぶりも非常に素晴らかった。彼女の出演シーン全てに意味が込められていると思うのだが、その含みも全て内包する強い演技であった。あとこのクラシカルなメイクにもバッチリで、美しさがまた光っていた。しかしリリー・コリンズやチャールズ・ダンスの演技も素晴らしく(個人的にはアマンダ・セイフライドよりリリー・コリンズの方が印象深かった)何処を切り取っても今作も悪いところが見つからない。

それにしてもモノクロームへの愛=黄金期へのノスタルジーが動画配信(Netflix)という新時代のフォーマットによって私達を包み込むなんて、なんという皮肉。
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