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Mank/マンクのタキのレビュー・感想・評価

Mank/マンク(2020年製作の映画)
3.9
市民ケーンの時代のフィルムに似せたモノクロのダメージ加工や音の割れ具合などこだわりにこだわった作りでなかなかこの企画に映画会社がうんと言わなかったのもわかる気がする。ハッキリクッキリしたクリアな映像に慣れきっているので画面が全体にぼんやりして見えるが、マリオン・デイヴィス役のアマンダ・サイフレッドぐらいの美貌でやっと目の解析度が上がる。マンクは中年太りで口が悪くて大人気ないアル中の脚本家なのだが、ゲイリーオールドマンが憎めないキャラクターをつくりあげていてさすがだった。
1930年代当時のハリウッドの裏話、特にMGMの絶対的権力者だったメイヤーやThe Boy Wonder(天才少年)と呼ばれたプロデューサー、アーヴィング・タルバーグのこと、カリフォルニアの州知事選で新聞王ハーストと戦うことになった社会主義の小説家アプトン・シンクレアのことなどを知った上で見ないとなにがなにやら分からない。字幕の限界もあるのかもしれないけど会話がウィットに富み過ぎててなかなかついていけない。配信で見たのをいいことにシーンごとに停止して登場人物の背景を調べたりその上で会話の内容を反芻したりしながら3日がかりでやっと見終わった。
市民ケーンの制作の裏話的なところは牧場の民宿みたいな場所で60日間のカンヅメで脚本制作をしていたこと、マンキウィッツを脚本家としてクレジットに載せるかどうかでオーソン・ウェルズと揉めていた点ぐらいだった。著作権のある者に全ては集約され脚本は書いてもクレジットされないというのは当時よくあったということにまず驚く。映画ではオーソン・ウェルズは他の企画で忙しくマンキウィッツ単独で書いたというような描写だったが、実際のところやはりオーソン・ウェルズとの共同作業であったというのが妥当な線らしい。マンキウィッツ自身が社会主義であったという流れから(これもどうやら創作)やはり単独で書いたとしなければならなかったのだろうなという気がする。
メディア総出でシンクレアのネガティブキャンペーンをはり大衆をコントロールしようとするところなどは政治とメディアの関係を考える上で興味深い。
なんでもハーストという人物はスペイン人の暴虐無人ぶりを書いた捏造記事で民意をコントロールし米西戦争まで引き起こすようなこともやっていたようだ。
彼は本当にちゃんと市民ケーンを見たんだろうかとふと思う。そんなに激怒するような内容じゃないのになと思うのは当事者じゃないから言えることだろうか。


【インタビュー】デビッド・フィンチャー監督がほれ込んだ男「Mank マンク」の魅力
https://eiga.com/news/20201212/10/

デヴィッド・フィンチャーが語る『Mank/マンク』
http://indietokyo.com/?p=14623

『Mank/マンク』を観る前に知っておきたい7つのこと
https://www.cinematoday.jp/page/A0007589
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