ああ、楽しかった。
調子のいいときのジョン・ウー作品くらいの水準はある極上エンターテインメント。
ストーリーは決して緻密とは言えないものだし、たとえばカーチェイスのシーンの編集とか全然コンティニュイティがない。
プロット上のサプライズは、本作のリアリティ上での驚きではなくて、単に観客をびっくりさせてやれという企図だけである。
でも、そこがいい。
とにかく観客を楽しませてやれ。びっくりさせてやれ。
もう、その意志だけでぐいぐい引っ張っていく。
譬えていうなら、「蓋を閉じる権利のない状態で食べている椀子蕎麦」。
「いや、もうお腹いっぱいなんっすけど……」と言ってもまったく聞いてくれない。次から次へと蕎麦が投入される。
でも、本作の凄いところは、お腹いっぱいと思ってたんだけど、「あっ。まだ喰えます。美味いっす。入れていいっす!」てなっちゃうところ。
冒頭にジョン・ウーって書いたけど、ほかにも「M:I」シリーズだったり、007シリーズだったり、相当な数のオマージュが入っている。
いやいや。これを真似とかパクリとか言っちゃ可哀想。オマージュと思ってあげましょう。
こんなに楽しかったんだから。
中でもびっくりしたのは、「ノー・タイム・トゥ・ダイ」の予告で見た、ワイヤーを頼りに橋から飛び降りるシーンがあったこと。
だって。あっちはコロナで延期なんでまだ公開してないよ! 公開してなくて誰も観てない映画のオマージュまでしちゃってるんだから、これは凄いことですよ!(いや、ほんとは単なる偶然なんだろうけど)
あと、特筆すべきは主題曲のメロディラインの野暮ったさと、ダッサダサの編曲。1990年くらいのサンプリング・キーボードで打ち込んだのか?! と思うくらいダッサい音色とアレンジ。
でも、何度も流れるうちに、それが癖になるところも、きっと私はこの映画を愛してしまったんだろうな。ふっ……。