けんぼー

シャン・チー/テン・リングスの伝説のけんぼーのレビュー・感想・評価

4.2
2021年鑑賞117本目。
デスティン・ダニエル・クレットン監督の起用に納得。監督がこれまで描いてきたテーマとMCUが見事に融合した作品。

デスティン監督の過去作『ヒップスター』『ショート・ターム』『ガラスの城の約束』『黒の司法』を鑑賞した上で改めて鑑賞してきました。

その上で感じたのは、これまでの作品で描かれてきた「家族」「親子」「ただそばにいてくれる人」「人種」という要素が全て盛り込まれていて、ちゃんとデスティン・ダニエル・クレットン作品だったということです。
特に「シャン・チー」一家の「親子愛」「家族愛」には1回目に見た時よりも感動しました。
しかも、それでいてちゃんとMCU作品でもあるということが改めて驚きです。

父親との心の壁と、根底にある愛情との間で揺れ動くシャン・チーとシャーリンの葛藤がより伝わって共感できましたし、自分の過去の呪縛に囚われて「閉じゆく」シャン・チーを「ただそばにいてくれる」だけでなく、明るく支えて「開いて」くれる良きパートナーの「ケイティ」の良さも改めて感じられました。

脚本もデスティン監督が関わっていることもあり、まさにシャン・チーが本来持つバックボーンがデスティン監督が持つテーマと融合して、より魅力的なキャラクター達が生まれた作品だと思います。
2回目の鑑賞もちゃんと面白かった!素晴らしい。
今後のMCU、シャン・チー、そしてデスティン・ダニエル・クレットン監督作品は要チェックです。
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2021年鑑賞108本目。
MCUフェーズ4開幕第1作としてこれ以上ないクオリティとテーマ性。最高のスタートダッシュを決めたMCUはまだまだ映画界の覇権を握り続ける。ファンも初見さんも、新たなMCUの世界へようこそ!

いよいよみんな大好きMCUのフェーズ4が開幕!
初のアジア人ヒーロー「シャン・チー」のオリジンであり、成長物語でもある。

MCU第1作『アイアンマン』の冒頭で登場し、トニー・スタークがアイアンマンとなるきっかけとなったテロ集団「テンリングス」。
その後、『アイアンマン3』では「テンリングス」のボス「マンダリン」が登場。結局は「マンダリン」も「テンリングス」も偽物だったわけだが、本作は実は大昔から存在していたという設定の本物の「テンリングス」、そしてそれを率いるシャン・チーの父である「ウェン・ウー」がヴィラン。

本作を新たなサーガの始まりの作品と位置付けたのは本当に素晴らしいと思う。10年以上続けてきたからこそ作品数が多くなり、これからMCUデビューしようとしている人にとって全作品追うのはかなりキツいことだと思うが、本作は「MCUの入り口」としても最適である。タイミングとしても、作品内容としても。
そしてそんな「入り口」としての作品に、MCU第1作『アイアンマン』と繋がりのある「テンリングス」を絡めてきたのはただの偶然なのだろうか。古参ファンは壮大な伏線回収にワクワクし、新規ファンは改めて第1作を見直すきっかけにもなる。MCUの戦略的抜け目のなさには驚きを通り越して恐怖すら感じる。

さて、初のアジア人が主人公である本作は我々日本人にとっても嬉しいことである。『ショート・ターム』『ガラスの城の約束』『黒い司法』などを制作してきたデスティン・ダニエル・クレットン監督だが、『ブラック・ウィドウ』のケイト・ショートランド監督然り、MCUの最近の監督選びは意外性がある。そして先ほど挙げた3作品の全てに我らがキャプテン・マーベル「ブリー・ラーソン」が出演していることも有名。ってことは、、、ね?もうわかるよね?それはお楽しみに。

しかし、鑑賞前はシャン・チーの「カンフー映画」としての側面にいささか不安もあった。カンフーによる対人戦がメインということは、今までのMCU作品と比べるとアクションのスケールが小さくなってしまうのではないかと。『ブラック・ウィドウ』の時も同じ感じだったんだけどね。。。

でもそんな心配は冒頭10分で消し飛ぶ。

冒頭から本作のヴィランであるウェン・ウーが、彼が身につける地上最強の武器「テンリングス」を使って大暴れ。スケールの小ささなど微塵も感じさせない。「テンリングス」の強さとウェン・ウーのヴィラン性をスムーズに提示し、そこから流れるように物語の最終目的地である「ターロー村」、村の住人で後にウェン・ウーの妻となる「リー」との出会いと、まるでダンスのような二人の異なる「武」の出会い、そしてシャン・チーの出生などが描かれる。ウェンとリーの戦いは映画『グリーン・デスティニー』的なワイヤーアクションに、MCUお得意のVFXが融合した美しいカンフーアクションだった。

その後もカンフーバトルシーンが描かれるが、随所に工夫が見られた。

まず「空間の限定によるわかりやすさとダイナミズム」である。「バスの車内」や「ビルの足場」など、場所としては狭いものの、「アクションのベクトル」を限定してはっきりさせることで理解しやすく、かつカンフーの立ち回りをよりダイナミックに感じることができるようになっている。
例えば、バス車内のアクションはシャン・チーとテンリングスの手下たちが「手前と奥」という「Z軸」方向に移動しながら戦い、ビルの外に作られた足場でのアクションでは「上と下」「右と左」という「X軸」「Y軸」方向に移動しながら戦う。

そして「サスペンス」である。ハラハラ感がアクションに付け足されていることで、「戦闘」と「ヤバい状況」が並行して展開するため、「ただの殴り合い」ではなくなり、観客の注意を引き続ける。バスのシーンは運転手が気絶し、ブレーキが故障してしまうことで事故るかもしれないハラハラ感があり、ビルのシーンは落ちてしまうかもしれないというハラハラ感がある。

そしてどちらの戦いでもシャン・チーは「人を助ける」のだ。バスでは他の乗客を全員救い、ビルでは親友で相棒の「ケイティ」を救う(ビルのシーンは厳密には他の人が助けるけど笑)。ちゃんと「ヒーロー」になっているのだ。

終盤は大人数での迫力ある戦闘シーンとVFXを駆使したMCUらしいバトルが見られる。もうお腹いっぱいである。
特にヴィランであり父であるウェン・ウーとシャン・チーのラストバトルは映画冒頭のウェン・ウーとリーの戦いと対になっており、感動した。

また、この作品は「大切なものを失った人がそれを乗り越える物語」でもある。
主人公シャン・チー、父ウェン・ウー、そしてシャン・チーの妹「シャーリン」は妻であり母であるリーを失い、それを引きずりながら生きている。シャン・チーの親友ケイティは「夢や目標」を失い、今の自分の生き方に迷っている。
しかし彼らは物語の最後にはそれらを乗り越え、前進する。そんな彼らの姿は、多くのものを失ったコロナ禍に生きる現代の我々を勇気づけるメッセージとしても受け取れる。

さらに本作を見て思ったのはMCUはフェーズ4を「継承のフェーズ」にしようとしているんじゃないかなあということ。
『ブラック・ウィドウ』では「ナターシャ」から妹「メリーナ」へ、本作ではウェン・ウーとリーからシャン・チーとシャーリンへ「継承」がなされていることが印象に残った。予告とかポスター見てればなんとなくわかることなので言及してしまうが、シャン・チーは父から「テンリングス」という武器と、母から「相手と調和する武術」を継承する。(シャーリンが何を継承するかは劇場でご確認ください。笑)

そして作品全体を通して言えるのは、シャン・チーとケイティのコンビが素晴らしいということ。MCU屈指のバディと言えるかもしれない。二人の楽しいやりとりが物語に緩急を与えているだけでなく、二人の「友達以上恋人未満」的な微妙なバランスがもたらす「不安定さ」も物語を面白くしている。
ケイティ役の「オークワフィナ」が良い!どこかで聞いたことある声と喋り方だなあ、と思ったらディズニー映画『ラーヤと竜の王国』で龍の「シスー」役をしていた人だったのね。こりゃ今後も注目の俳優さんです。

作品の最後で登場するサプライズゲストがシャン・チーを歓迎するシーンがありますが、そのシーンはシャン・チーを演じた「シム・リウ」が本作の主演に大抜擢され、MCUという映画界の台風の目に突然迎え入れられた状況と重なる。まさにシャン・チーはシム・リウ自身なのである。

ふう、、、、、。
めちゃくちゃ長くなってしまいましたが、MCUフェーズ4、新たなサーガ、そしてMCU新規ファンにとっての「入り口」としてこれ以上ないクオリティ、テーマ性、メッセージ、MCUらしさが詰まった必見の一作と言えるでしょう。

次はクロエ・ジャオ監督の『エターナルズ』ですが、前回のケイト・ショートランド監督の『ブラック・ウィドウ』、そして今回のデスティン・ダニエル・クレットン監督の『シャン・チー』を見て私は確信しました。絶対面白くなります。MCUは確かな実力のある監督を見極める目を持っているし、MCUお得意のVFXやアクションの見せ方を、その優秀な監督の持つ作家性と融合して作品にする術を確立したということがわかりました。もう大丈夫。心配せず、期待値MAXで『エターナルズ』を待ちたいと思います。

すでにMCUファンの方も、これからファンになる方も、今後も映画界を牽引し私たちに新たな世界を見せ続けてくれるMCUというビックウェーブに一緒に乗って行きましょう!
ようこそMCUへ!

2021/9/3
2021/9/12鑑賞